ちぼけだつた、敬君も来なければ樹君も来なかつた。
[#ここから2字下げ]
・雑草のしたしさは一人たのしく
・梅雨の水嵩のあふれるところどぜうとこどもら
・ほのかに梅雨明りして竹の子の肌
・へんぽんとして託児所の旗が、オルガンがうたふ
枇杷のうつくしさ彼女は笑はない
・あれから一年の草がしげるばかり
[#ここで字下げ終わり]
六月二十四日[#「六月二十四日」に二重傍線] 降る、降る、降れ、降れ。
終日閉居、読書三昧。
今日もMさんが来た、そして句作を初めた。
酒を飲んで酔ふことは悪くないが、酔ひたい気分で酒を呷ることはよろしくない。
酒を尊重せよ、自分の生命を尊重するよりも!
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
ぐうたら手記
すなほに[#「すなほに」に傍点]。――
行住坐臥、いつでも、どこでもすなほに。
善悪、生死、すべてに対してすなほに。
純なる熱情[#「純なる熱情」に傍点]、唯一念[#「唯一念」に傍点]を持して。
芸道[#「芸道」に傍点]といふことについて。――
執着[#「執着」に傍点]を去れ、酒から作句から、私自身から。
すなほに受け入れる心[#「受け入れる心」に傍点]から強く働らきかける力が出てくる。
あるときは澄み[#「あるときは澄み」に傍点]、あるときは濁る[#「あるときは濁る」に傍点]、そして流れ動かないではゐられない――これが私の性情だ。
湛へて澄む――行ひすますことは、私には不可能だ。
[#ここで字下げ終わり]
六月二十五日[#「六月二十五日」に二重傍線] 晴。
畑仕事。――
大根ふとれ、トマトなれ、蓮芋伸びよ、唐辛よ辛くなれ。
三つ植ゑつけて置いた馬鈴薯が三十ばかりに殖えてゐた。
土の抱擁と日光の愛撫[#「土の抱擁と日光の愛撫」に傍点]。
寝た、寝た、宵から朝までぐつすり寝た、ランプもともすことなしに。
六月廿六日[#「六月廿六日」に二重傍線] 晴、そして曇、雨。
拝受、々々、々々!
……最後の晩餐[#「最後の晩餐」に傍点]! 酒、酒、酒、酒。
六月廿七日[#「六月廿七日」に二重傍線] 曇、それから雨。
ぼうぜん、あんぜん、そしてゆうぜん、とうぜん。
[#ここから3字下げ]
蠅捕紙(連作風に)
蝿は蝿の死屍をつらね
死にきれない蝿の鳴いてもがけども
やつと立ちあがつたが、脚がぬけない蝿で鳴く
ひよいととま
前へ
次へ
全93ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング