り]

 六月十七日[#「六月十七日」に二重傍線] 曇。

昨夜の豪雨も今日の晴曇も解らないほど飲んで飲んで、そして倒れた。

 六月十八日[#「六月十八日」に二重傍線] 晴。
 六月十九日 曇。
 六月廿日 雨。

ぢつとして読書。
ぼう/\ばく/\!
もう虫が鳴く、虫の声は身にしみる、虫のいのち、虫のうた。……
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私の詩[#「私の詩」に白三角傍点]
[#ここで字下げ終わり]

 六月二十一日[#「六月二十一日」に二重傍線] 雨、梅雨らしく。

早起きして身辺整理。
けふもぢつとして読書したり句作したり。
何といふ嫌な夢[#「嫌な夢」に傍点]だつたらう、それはヱロでもグロでもなく、あまりになま/\しく現実的だつた。
私はがくぜんとして自分を省みた、そして恥ぢた、何といふ醜い私[#「醜い私」に傍点]だつたらう。
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・水かげも野苺のひそかなるいろ
・おちてしまへば蟻地獄の蟻である
・雑草につつまれてくちなしの花は
・赤いのはざくろの花のさみだるる
・とても上手な頬白が松のてつぺん
・草を咲かせてさうしててふちよをあそばせて
 赤蛙さびしくとんで(改)
 酔ひざめの風がふく筍(その翌朝)
 酔ひざめは、南天の花がこぼれるこぼれる
[#ここで字下げ終わり]

 六月廿二日[#「六月廿二日」に二重傍線] 曇。

田植のいそがしい風景。
……蝿を殺す、油虫を殺す、百足を殺す、蜘蛛を殺す、……そしておしまひには私自身を殺すだらう!……
あまり予期してゐなかつた酒が魚が持ち来された(一昨日、幸便に托して、山田屋主人に酒と魚を借りたいといふ手紙をあげてをいたのであるが)、さつそく飲んだ(五日ぶりの酒であり魚であつた)、快い気分になつて、学校に樹明君を訪ねて来庵を促した(そして米と野菜とを貰つて)、それからまた飲んだ、飲んで街へ出た、ひよろひよろになるまで飲んだ、ちようど私の不在中訪ねて来て、私を探し歩いてゐる敬君に逢うて。……
二時すぎて、やつと戻つた、すぐ寝た。

 六月廿三日[#「六月廿三日」に二重傍線] くもり。

快い宿酔! そこらをしばらく散歩。
樹明、百円札で山頭火をおどす!
これは昨日の出来事であつた、近来にない明々朗々たる珍現象であつた!
Y屋のMさんが例の如くやつてきて話す、郵便物を托送する。
終日待つた、待
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