けちけちするな、真面目は結構、くよくよしてはいけないが。
[#ここから2字下げ]
・柿の若葉が、食べるものがなくなつた
・空腹、けふのサイレンのいつまでも鳴り
・うつてもうたれても蝿は膳のそば(雑)
・かついでおもいうれしい春の穂
・焼かれる虫の音たてて死ぬる
・暮れるとしぼむ花草でてふてふの夢
・花に花が、てふちよがてふちよに
・梅雨めく雲でぬけさうなぬけない歯で
・雑草ほしいまゝなる花にして
雑草しげり借金ふえるばかり
・ゆふ風ゆうぜんとして蜘蛛は待つ
・若葉から若葉へゆふべの蜘蛛はいそがしく
・ふと眼がさめて風ふく
改作
・ひよつこり筍ぽつきりぬかれた
[#ここで字下げ終わり]
六月十三日[#「六月十三日」に二重傍線] 晴、空[#(ラ)]梅雨らしい。
早起[#「早起」に傍点]、これも老の特徴だらう、こんなに早起しようとは思はないけれど、眼が覚めると寝てはゐられないのである。
朝御飯を食べてゐるとき、ほろりと歯がぬけた、ぬけさうでぬけなかつた歯である、ぶら/\うごいて私の神経をいら/\させてゐた歯である、もう最後のそれにちかい歯である、その歯がぬけたのだからさつぱりした、さつぱりしたと同時に、何となくさびしく感じる、一種の空虚を感じるのである。
午前中読書、しづかなるよろこび。
午後散歩、帰庵すると珍客が待つてゐた、詩外楼君が突然来庵してくれたのである、樹明君を招いて飲む、酔うて歩く、そしてとろとろどろどろ、連れて戻つて貰うて、いつしよに寝る、近来めづらしいへべれけぶりだつた、それだけ嬉しくのんびりしたのでもある!
[#ここから2字下げ]
・空[#(ラ)]梅雨の風のふく歯がぬけた
ぬけた歯を投げ捨てて雑草の風
・ぬけるだけはぬけてしまうて歯のない初夏
・花がひらいて日が照つてあそぶてふてふ
・めづらしく誰かくる雑草の見えがくれ
・おもふことなく萱の穂のちる
・こゝも墓らしい筍が生えて
・歯のぬけた日の、空ふかい昼月
[#ここで字下げ終わり]
六月十四日[#「六月十四日」に二重傍線] 晴。
とても早く起きる。
詩外楼君と同道して徳山へ、久しぶりに白船君と会談、そして東へ西へお別れ。
私は一時の汽車に乗つた、途中三田尻下車、伊藤君を訪ね、それから三田君を訪ねてまた飲んだ、鯛の刺身のあたらしさ、うまさは素敵だつた、それと同様に三田君の人間のよさも
前へ
次へ
全93ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング