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 風がいちめんの雑草が合唱する
・つかれて風の雑草の雨となつた
・逢へるゆふべの水にそうてまがれば影
・あざみの花に日のさせばてふてふ
・狛犬の二つの表情を撫でる
・おもひでが風をおよぐ真鯉緋鯉が(故郷端午)
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 六月六日[#「六月六日」に二重傍線] 晴。

久しぶりにゆつくり朝寝した。
近在散歩、秋穂霊場参拝。
畑手入、今春は私の悪日[#「私の悪日」に傍点]がつづいたので、茄子も胡瓜もトマトも植ゑつけるほどの安静を持たなかつた。……
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   ぐうたら手記
雑草雑感。
生命――心――言葉――詩
客観を掘りぬくと主観にぶつつかる、彼が我となるのである。
物――心、自然――自己
物にこだはらない、物からわずらはされない境地。
流動して停滞しない境地。
二二ヶ四の世界[#「二二ヶ四の世界」に傍点]!
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 六月七日[#「六月七日」に二重傍線] 曇、雨、そして晴。

最初の筍を見つけて食べる、歯が抜けて噛みしめることが出来ないから、ほんたうの味は味へないけれど、やつぱりうまい。
遠雷、何となく別れた人をなつかしがらせる、これもオイボレセンチの一端か。
飛行機が列をなして低空を通過する、あの爆音は嫌だけれどその姿は悪くない。

 六月八日[#「六月八日」に二重傍線] 晴。

信州蕎麦粉を味ふ、蕎麦粉そのもののうまさもあるが、友情のあたたかさがうれしい。
飯がない、米がない、銭がない。――
山を歩く、山つつじがうつくしい。
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   ぐうたら手記
□即時而真[#「即時而真」に傍点]、当相即道を体解[#「体解」に傍点]せよ。
□すなほなわがまま[#「すなほなわがまま」に傍点]!
□酒は(少くとも私には)自己忘却の水[#「自己忘却の水」に傍点]である、不眠の夜ふけて飲むアダリンのやうに!
□私は与へること[#「与へること」に傍点]が乏しい、だから受けること[#「受けること」に傍点]の乏しさで足りてゐなければならない。
□文芸作品の価値は二つに分けて観ることが出来る。
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一、作品そのものゝ価値(純文芸的[#「純文芸的」に傍点])
一、作品が時代へ働らきかけた価値(史的意義)
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この二つの価
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