箇でも、私は私の句を打出したい。
午後、ぼんやりしてゐると、樹明君が酒井さんと同道して来庵、間もなく酒と肴とが持ち来されたが、何となく誰も愉快になれなかつた、私はやたらに飲んで饒舌つた。
いつもより早く解散した、私は経本を持ち出して、飲み直さずにはゐられなかつた、そして酔ひつぶれて、いつもの宿屋へころげこんだのである。
ああ、ああ、ああ。
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改作
・ころり寝ころべば五月の空
・青葉の奥へ道がなくなれば墓地
・日向あたゝかく私がをれば蝿もをる
自問自答
・それもよからう草が咲いてゐる
[#ここで字下げ終わり]
五月廿八日[#「五月廿八日」に二重傍線] 雨。
終日終夜、もだえるばかりだつた。
五月廿九日[#「五月廿九日」に二重傍線] 曇、晴れてくる。
好日、好日、緑平老の手紙が、Kの手紙が私を元気づけてくれた。
身辺整理。
夜はシネマ見物、そしておとなしく帰庵しておだやかな睡眠。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
ぐうたら手記
□エロストロゴスとの抱擁[#「エロストロゴスとの抱擁」に傍点]!
□無理をしないこと[#「無理をしないこと」に傍点]、これこれ!
□自由律俳句作者としての私には苦悶[#「苦悶」に傍点]はない、苦心[#「苦心」に傍点]はあるけれど。
□俳句は、私の俳句は悲鳴[#「悲鳴」に傍点]ぢやない、怒号[#「怒号」に傍点]ぢやない、欠伸[#「欠伸」に傍点]でもなければ溜息[#「溜息」に傍点]でもない、それはすこやかな呼吸[#「すこやかな呼吸」に傍点]である、おだやかな脉搏[#「おだやかな脉搏」に傍点]である。
[#ここで字下げ終わり]
五月三十日[#「五月三十日」に二重傍線] 晴。
めつきり暑うなつた、散歩したが物足らないので、酒を借り魚を料理して、樹明君の来庵を待ちくたぶれて、やうやく飲み合つた。
今夜も泥酔(最後の泥酔[#「最後の泥酔」に傍点]である)、そしてあてもなく彷徨して、いつもの宿で倒れた。
五月三十一日[#「五月三十一日」に二重傍線]
終日終夜、自己沈潜。
大道無門、千差有路、透得此関、乾坤独歩。
莫妄想、前後際断。
[#ここから2字下げ]
自戒[#「自戒」は罫囲み]
酒について[#「酒について」は罫囲み]
酒は味ふべきものだ、うまい酒[#「うまい酒」に傍点
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