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 四月廿二日[#「四月廿二日」に二重傍線] 晴れたり曇つたり、また雨か。

けさも早起、しかも米がない。
大根と唐辛とを播く。
せめて今日一日を正しく楽しく生きたい[#「せめて今日一日を正しく楽しく生きたい」に傍点]。
米がなくては困るので、学校に樹明君を訪ねて、Sさんから句集代を貰うて貰ふ。
山口まで歩いた、途中、湯田競馬見物、一競馬見たら嫌になつた、そこには我慾が右徃左徃してゐるばかりだ、馬券がとぶばかりだ、馬を鑑賞する、いや、賭そのものを味ふこと[#「賭そのものを味ふこと」に傍点]すらないのだ、勝負事の卑しい醜い一面しかないのだ。
帰途、新町の馴染の酒店で味淋一杯のお接待を頂戴した、小母さんは眼が悪い、そして今日明日はお大師様の御命日である。
学校に寄つて、夕飯を御馳走になつた、そしてほどよく酔うてしやべつて、戻つて寝た。
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   湯田競馬
・くもりおもたく勝つたり敗けたりして
 麦田ひろ/″\といなゝくは勝馬か
   遊園地
・さくらちるあくびする親猿子猿
 檻の猿なればいつも食べてゐる
・猿を見てゐる誰ものどかな表情
   山口運動場
・椎の若葉もおもひでのボールをとばす
   建築工事
 雲雀がさえづる地つきうたものびやかに
 声を力をあはせては大地をつく
・芽ぶくなかのみのむしぶらり
・ふたりのなかの苺が咲いた
・山の湯へ、初夏の風をまともにガソリンカーで
・しげる葉の、おちる葉の、まぶしいそよかぜ(ナ)
・若葉へわたしへ風がやさしくねむりをさそふ
・なにやらさみしく雀どものおしやべり
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 四月廿三日[#「四月廿三日」に二重傍線] もちなほして晴。

秋穂のお大師めぐりがしたいのだけれど銭が足りないので、また湯田温泉へ行つた。
もう初夏らしい風である、歩けばすこし暑いが、しづかにをれば申分のない季節である。
うれしいものは毎日うけとるたよりである、今朝は山形から珍らしいかき餅を貰つた、ありがたいことである。
ほどよい疲労とうまい晩酌と、そしてこゝろよい睡眠。
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   湯田競馬、追加一句
・勝つてまぶしく空へ呼吸してゐる
・誰も来てはくれないほほけたんぽぽ
・爆音はとほくかすんで飛行機
・ふるさとの学校のからたちの花
・ここに舫うておしめを干して初夏の風
・晴れ
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