て帆柱の小さな鯉のぼり
・暮れてなほ何かたたく音が、雨がちかい
・ひとりたがやせばうたふなり(ナ)
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 四月廿四日[#「四月廿四日」に二重傍線] 晴。

近在散歩。
澄太君に返事の手紙を書いた、緑平居訪問の同行を断つたのである、それはまことに一期一会[#「一期一会」に傍点]ともいふべきよろこび[#「よろこび」に傍点]であり、同時にかなしみ[#「かなしみ」に傍点]ではないか、君のあたゝかい心、そして私のかたくなな心、私は書いてゐるうちに涙ぐましくなつた。……
若楓のうつくしさ、きんぽうげのうつくしさ。
季節の焦燥、人間の憂欝、私の彷徨。
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 草青く寝ころぶによし
 ここまでは会社のうちで金盞花
・あゝさつきさつきの風はふくけれど
・まがれば菜の花ひよいとバスに乗つて
・寝ころべば旅人らしくてきんぽうげ
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 四月二十五日[#「四月二十五日」に二重傍線] 晴、日本の春、南国の春。

緑平老に――
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……澄太君といつしよにお訪ねすることが出来ないのを悲しみます、無理に出かければ出かけられないこともありませんけれど、それは決してあなた方を快くしないばかりでなく、必らず私を苦しめます、どうぞお許し下さい。
……何故、私は小鳥たちのやうにうたへないのか、蝶や蜂のやうにとべないのか、蟻のやうにうごけないのか、……私は今、自己革命に面してゐます、一関また一関、ぶちぬきぶちぬかなければならない時機に立つてゐます。
……自己克服、いひかへれば過去一年間の、あまりに安易な、放恣な、無慚な身心を立て直さなければなりません、……アルコールでさへ制御し得なかつた私ではなかつたか。……
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松蝉がしきりに鳴きだした、あの声は春があはたゞしく夏へいそぐうただ。
半日、椹野川堤で読書、一文なしでは湯田へ行けないから。――
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・うぐひすうぐひす和尚さん掃いてござる
・なんとよい日の苗代をつくること
・山はしづかなてふてふがまひるのかげして
・山かげふつとはためくは鯉幟
・岩に口づける水のうまさは
・若葉したゝる水音みつけた
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 四月二十六日[#「四月二十六日」に二重傍線] 曇。

身辺整理、むしろ心内整理。
門外不出、終日読書。

 四月二
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