なものだらう。
□苦しいから生きてゐるのかも知れない、なやみがあるから生甲斐を感じるのかも知れない。
□いのちはうごく[#「いのちはうごく」に傍点]、そのうごきをうたはなければならない。
□雑草! 私は雑草をうたふ、雑草のなかにうごく私の生命、私のなかにうごく雑草の生命をうたふのである。
 雑草を雑草としてうたふ[#「雑草を雑草としてうたふ」に傍点]、それでよいのである、それだけで足りてゐるのである。
 雑草の意義とか価値とか、さういふものを、私の句を通して味解するとしないとはあなたの自由である、あらねばならない。
 私はたゞ雑草をうたふのである。
[#ここで字下げ終わり]

 四月七日[#「四月七日」に二重傍線] とてもよいお天気、しかし寒い々々。

水をくんでおいて帰る黎々火君よ。
鶯が、四十雀がほがらかに啼く。
黎々火君は八時の汽車で帰つていつた、別れて一人となるとひとしほうすら寒い、山の鴉が出てきてさわぐのも何となくうらさびしい。
今日は今年の花見の書入日第一の日曜だらう。
私にしてもぢつとしてをれない日だ。
どこといふあてもなく歩いた。
我人ともになつかしい。
さくら、さくら、酒、酒、うた、うた。
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・あてなくあるくてふてふあとになりさきになり
・芽ぶくものそのなかによこたけ[#「け」に「マヽ」の注記]る
・山のひなたの、つつましく芽ぶいてゐる
・水音の暮れてゆく山ざくらちる
・さくら二三本でそこで踊つてゐる
 白い蝶が黄ろい蝶が春風しゆうしゆう
 さくらちる暮れてもかへらない連中に
 花見べんたうほろつと歯がぬけた
[#ここで字下げ終わり]

 四月八日[#「四月八日」に二重傍線] 雨。

花まつりを行ふ地方はあやにくの雨で困つたらう、私は宿屋でゆつくり雨を味つた。
どうもからだのぐあいがあたりまへでない、むろんあたまのぐあいもよくないが。
夕方から、樹明君によばれて学校の宿直室へ出かける。
よい酒をよばれて、そのまゝ泊めて貰つた。
悔いのない酒[#「悔いのない酒」に傍点]、さういふ酒でなければならない。

 四月九日[#「四月九日」に二重傍線] 曇、雨、早朝帰庵。

身辺整理、捨てゝも捨てゝも捨てきれないものが、いつとなくたまつてくる。……
終日読書。
やつと一関透過[#「やつと一関透過」に傍点]、むつかしい一関だつた[#「むつか
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