しい一関だつた」に傍点]、まことに白雲悠々の境地である。
更けて遠く蛙の声。
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・草に寝ころんで雲なし
・この山の木も石も私をよう知つてゐる
雨の小鳥がきては啼きます
・身にちかく山の鴉がきては啼きます
・春風の楢の葉のすつかり落ちた
・穴から蛇もうつくしい肌をひなたに
・ひとりで食べる湯豆腐うごく
・さくら咲いて、なるほど日本の春で
・晴れてさくらのちるあたり三味の鳴る方へ
[#ここで字下げ終わり]
四月十日[#「四月十日」に二重傍線] 雨、しと/\とふる春雨である。
買ひかぶられて苦しい[#「買ひかぶられて苦しい」に傍点]、どうぞ私を買ひかぶつて下さるな[#「下さるな」に傍点]。
大樹の下に[#「大樹の下に」に傍点]を読む、小野さんといふ著者のあたゝかい、やはらかい人柄がよく解る、情趣の人[#「情趣の人」に傍点]である。
大空放哉伝[#「大空放哉伝」に傍点]を読む、放哉坊はよい師友を持つてゐてありがたいことである。
夜、酒を提げて、樹明君とI君と来庵、二人は酔うて唄つたり踊つたりする、しかし私は酔へない、しやべれない、どうして唄へるものか、踊れるものか、気の毒だけれど、早く帰つてもらつて寝た。
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・人声のちかづいてくる木の芽あかるく
雑草風景、世の中がむつかしくなる話
・花ぐもりの飛行機の爆音
・なんだかうれしく小鳥しきりにきてなく日
・さえづりかはしつつ籠のうちとそと
おほらかに行くさくら散る
・ここから公園の、お地蔵さまへもさくら一枝
黎々火君に
なつかしい顔が若さを持つてきた
[#ここで字下げ終わり]
四月十一日[#「四月十一日」に二重傍線] 曇、身心すぐれず。
しようことなしにポストまで、そして米と油とを買うて戻つた。
無味無臭、無色透明の世界に住みたい。
水、餅、豆腐、飯。……
四月十二日[#「四月十二日」に二重傍線] 晴、なか/\寒い。
私を救ふものは涙よりも汗、汗も流さないから堕落するのだ。
いやな風が吹く、風にはたへられない私だ。
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・新菊もほうれん草も咲くままに
・草が芽ぶいて来てくれて悪友善友
・枇杷が枯れて枇杷が生えてひとりぐらしも
・いちにちすわつて風のながれるを
・暮れるとすこし肌寒いさくらほろほろ
・椿を垣にして咲かせて金持らしく
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