山ざくら散るばかり
出征兵士の家
・日の丸がへんぽんと咲いてゐるもの
松並木よ
伐り倒されて松並木は子供らを遊ばせて
改作
花ぐもりの、ぬけさうな歯のぬけないなやみ
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四月三日[#「四月三日」に二重傍線] 花見日和。
小鳥がとてもよく啼く、四十雀がとくに浮調子で啼いてゐる、恋の唄だ!
緑平老へ愚痴をいはせて貰ふ。――
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……私は此頃痛切に世のあぢきなさ身のやるせなさを感じます、それはオイボレセンチに過ぎないとばかりいつてしまへないものがあります。……
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十二時のサイレンが鳴つて間もなく樹明君来庵、まづ一杯、ほろ/\として山を歩く、そして公園へ下りる、そこここ花見の酒宴が開かれてゐる、私たちも草にすわつて花見をする、ビール三本、酒一本、辨当一つ、――それで十分だつた、おとなしく別れる、私はすぐ帰庵して、お茶漬を食べて寝た。
今日の樹明君はよかつた、彼にくらべて私は私の心を恥ぢた、どうも酒に敗ける、酔ふとぢつとしてゐられなくなる、そして、……今日はわるくなかつたが。
人生はリズミカルに、大井川は流れ渡りだ。
花見辨当をたべてゐるうちに、ほろりと歯がぬけた、ぬけさうな歯であり、ぬければよいと考へてゐた歯であつた、何だかさつぱりした。
ぬけさうでぬけなかつた歯がぬけた、これだけでも解脱の気分[#「解脱の気分」に傍点]を味ふことが出来た。
自己検討[#「自己検討」に傍点]、愚劣を発見するばかりであるが、その愚劣が近来やゝ自在[#「自在」に傍点]になつたことはうれしいと思ふ。
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ぐうたら手記
□私はうたふ、自然を通して私を[#「自然を通して私を」に傍点]うたふ。
□私の句は私の微笑[#「微笑」に傍点]である、時として苦笑めいたものがないでもあるまいが。
□くりかえしていふ、私の行く道は『此一筋』の外にはないのである。
□俳句性を一言でつくせば、ぐつと掴んでぱつと放つ[#「ぐつと掴んでぱつと放つ」に傍点]、といふところにあると思ふ。
□私の傾能[#「能」に「マヽ」の注記]は老境に入るにしたがつて、色の世界[#「色の世界」に傍点]から音の世界[#「音の世界」に傍点]――声の世界[#「声の世界」に傍点]へはいつてゆく。
□俳句のリズムは、は
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