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(改作一句)
・月夜の筍を掘る
或る日或る家にて
やたらにしやべればシクラメンの赤いの白いの
[#ここで字下げ終わり]
三月三十日[#「三月三十日」に二重傍線] 晴れてうららか。
ゆうぜんとして、だうぜんとして、或はぼうぜんとして、無為にして無余[#「無為にして無余」に傍点]、いろ/\の意味で。
はる/″\信州からそば粉到来、さつそく賞味した。
敗残者[#「敗残者」に傍点]としてさん/″\やつつけられる夢を見た、それはまつたく私自身の醜態だつた、私自身しか知らない、私自身にしか解らない私の正体[#「私の正体」に傍点]だつた。
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・窓から花ぐもりの煙突一本
・電線に鳥がならんですつかり春
・わかれたくないネオンライトの明滅で
[#ここで字下げ終わり]
三月三十一日[#「三月三十一日」に二重傍線] 曇、やがて晴。
身心整理[#「身心整理」に傍点]。――
転身一路、しつかりした足取でゆつくり歩め。
一転語――
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春風秋雨 五十四年
喝
一起一伏 総山頭火
[#ここで字下げ終わり]
とう/\徹夜してしまつた。
年をとるほど、生きてゐることのむつかしさを感じる、本来の面目に徹しえないからである。
親しい友に――
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……私はとかく物事にこだはりすぎて困ります、そしてクヨ/\したり、ケチ/\したりしてゐます、私のやうなものは生きてゐるかぎり、この苦悩から脱しきれないでせうが、とにかく全心全身を句作にぶちこまなければなりません。……
・なんとけさの鶯のへたくそうた
・あるだけの酒をたべ風を聴き
・悔いることばかりひよどりはないてくれても
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――(このみち)――
このみちをゆく――このみちをゆくよりほかない私である。
それは苦しい、そして楽しい道である、はるかな、そしてたしかな、細い険しい道である。
白道である、それは凄い道である、冷たい道ではない。
私はうたふ、私をうたふ[#「私をうたふ」に傍点]、自然をうたふ、人間をうたふ。
俳句は悲鳴ではない、むろん怒号ではない、溜息でもない、欠伸であつてはならない、むしろ深呼吸[#「深呼吸」に傍点]である。
詩はいきづき、しらべである、さけびであつてもうめきであつてはいけない、
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