のお祭、提灯を吊り旗をかゝげ、御馳走をこしらへ、よい着物をきて、――秋祭風景はけつかう/\。
戻ると、あけておいた障子がしめてある、さては昨夜の樹明再来だなと、はいつてみると案の定、ぐうぐう寝てゐる、昨日から御飯を食べないからと鮨をたくさん持参してゐる、私もお招[#「招」に「マヽ」の注記]伴した、暮れかけてから、おとなしく別れる。……
焼酎一合と鮨六つとで腹いつぱい心いつぱいになつて、蚊帳も吊らないで眠つてしまつた、夜中に眼覚めて月を観た。
食べたい時に食べ[#「食べたい時に食べ」に傍点]、寝たい時に寝る[#「寝たい時に寝る」に傍点]、これが其中庵に於ける山頭火の行持だ。
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・日向はあたたかくて芋虫も散歩する
・朝は露草の花のさかりで
・身にちかく鴉のなけばなんとなく
・くもりしづけく柿の葉のちる音も
・萩さいてではいりのみんな触れてゆく
 聟をとるとて家建てるとて石を運ぶや秋
 秋空ふかく爆音が、飛行機は見つからない
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 九月十五日[#「九月十五日」に二重傍線] 晴、まこと天高し。

身辺整理、整理しても、整理しても整理しつくせないものがある。
待つともなく待つてゐたコクトオ詩抄[#「コクトオ詩抄」に傍点]が岔水居からやつて来た、キング九月号を連れて。
午後は近郊散策。
このあたりはすべてお祭である、家々人々それ/″\にふさはしい御馳走をこしらへて食べあふ、うれしいではないか。
ゆふべ何となくさびしいので街へ出かけた、山田屋でコツプ酒二杯二十銭、見切屋で古典二冊二十銭、酒は安くないが、本はあまりに安かつた。
コツプ酒のおかげで、帰庵すると直ぐ極楽へ行くやうに熟睡に落ちたが、覚めて胃がよくないのは是非もない、やめておくれよコツプ酒――と、どこやらで呟く声が聞えるやうだつた。
病んでもクヨ/\しない[#「病んでもクヨ/\しない」に傍点]、貧乏してもケチ/\しない[#「貧乏してもケチ/\しない」に傍点]、さういふ境涯に私は入りたいのだ。
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・食べるものはあるトマト畑のトマトが赤い
・水のゆたかにうごめくもののかげ
・空の青さが樹の青さへ石地蔵尊
・秋晴れのみのむしが道のまんなかに
   市井事[#「市井事」に傍点]をうたふ
・彼氏花を持ち彼女も持つ曼珠沙華
 秋の夜ふけて処女をなくした顔がうたふ(改作
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