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・なんと大きな腹がアスフアルトの暑さ
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九月十六日[#「九月十六日」に二重傍線] 朝は秋晴秋冷だつたが、それから曇。
今朝の御飯は申分のない出来だつた(目下端境期だから、米そのものはあまりよくない)、身心が落ちつくほど御飯もほどよく炊ける[#「身心が落ちつくほど御飯もほどよく炊ける」に傍点]。
もう米がなくなつたから(銭はむろん無い)、今日は托鉢しなければならないのだけれど、どうも気がすゝまない、といふ訳で、早目に昼飯をしまうて椹野川尻に魚釣と出かける、釣る人も網打つ人もずゐぶん多い、自転車がそこにもこゝにも乗り捨てゝある、私の釣は短かい、二時間ばかりで帰つて来た、運動がてらの、趣味興味以上でも以外でもないのだから。
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今日の獲物は、小鮒二、小鯊五。
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途中、捨猫の仔がまつはり鳴くには閉口した、私が旅しないのだつたら、連れて戻つて飼ふのだけれど。
宵からぐつすりと寝た、ランプも点けなかつた。
夜中に眼が覚めて、雨声虫声の階[#「階」に「マヽ」の注記]調を傾聴した。
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・をさない瞳がぢつと見てゐる虫のうごかない
・くもりつめたく山の鴉の出てきてさわぐ
・てふてふひらひらとんできて萩の咲いてゐる
・いちにち雨ふる土に種子を抱かせる
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其中漫筆
行乞と魚釣、鉄鉢を魚籃として。
殺活一如[#「殺活一如」に傍点] 与奪一体。
酒徳利に酒があるならば、米櫃に米があるならば。
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九月十七日[#「九月十七日」に二重傍線] 雨、一日降り通した。
雨漏りはわびしいものである、秋雨はまたよく漏るものだと思ふ。
夜が長くなつて日が短かくなつた、朝晩のサイレンを聞く時さう感じる。
雨はほんたうに私を落ちつかせる、明日の米はないけれど、しづかに読書。
終夜ほとんど不眠、夜明け前にとろ/\とした。
二十日月が明るかつた。
露命をつなぐ[#「露命をつなぐ」に傍点]――それで私はけつかうだ。
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其中漫筆
芸術は熟してくると、
さび[#「さび」に傍点]が出てくる、冴え[#「冴え」に傍点]が出てくる、
凄さ[#「凄さ」に傍点]も出てくる、
そこまでゆかなければウソだ、
日本の芸術では、殊に私たちの文芸では。
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