、マツチのペーパーを舐めてゐる、それには糊の臭があるとみえて。
待つても待つても、敬君は来ない、待ちくたびれて、洗濯したり、畑に肥料をやつたり。
夕食後、石油がないから、蚊帳の中に寝ころんでゐると、やつと、だしぬけに、敬君来庵、酒も罐詰も来た、私一人が飲んで食べて、敬君は話しつづけて、そしてだいぶおそくなつたけれど、またいつしよにFへ、――また飲んで饒舌つて、そして休み休みいつしよに戻つて来た、ぐつすり寝た、よい睡眠だつた。
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ぐうたら手記
□法衣をきて釣竿をかついで出かけたら面白からうと樹明君がひやかしたが、私は鉄鉢を魚籃としたならばもつと面白いだらうと考へてゐる。
□私の生活を語れば――
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雑炊、佃煮。
孤独、単純。
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九月九日[#「九月九日」に二重傍線] 雨、さすがに厄日前後で雲行不穏。
よく飲んでよく寝た朝である、お天気は悪いが、私たちは快適であつた。
朝飯のうまさ、いや、朝酒のうまさ。
敬君の山口行を駅まで見送つて、それから買物たくさん、――菜葉、石油、煙草、ハガキ――此金高三十四銭也。
ああ、しづかだ、しづかな雨だ。
午後、Kの店員が、酒と豆腐と小鯛とを持つてきて、手紙をさしだした、樹明君が五時頃来庵するから仕度をしておいてくれとのことである、よしきたとばかり、豆腐はヤツコに、魚は焼いて、そしてチビリ/\やつてゐると、樹明君がすこし疲れたやうな顔をあらはした、さしつさゝれつ敬君を待つたが、とう/\駄目だつた、そして樹明君は暮れきらないうちに帰宅した。
めでたいわかれだつたけれど、少々淋しい別れでもあつた。
酒が、昨日の分と今日の分とを合せて、一升ばかり残つてゐる、さてもかはればかはるものであるわい!
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ぐうたら手記
□独楽[#「独楽」に傍点]ではない、楽独[#「楽独」に傍点]である。
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九月十日[#「九月十日」に二重傍線] 曇、をり/\雨、どうやら晴れさうな。
そゞろ寒い、或は読み、或は考へ、或は眺め、そして清閑を楽しむ。
耳を澄ますと、どこやらで鉦たたき(?)が鳴いてゐる。
晩酌をゆつくりやつてから近在散歩。
苅萱を手折つてきて活ける、苅萱は好きだ。
きたない、うるさい、小さな
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