々帰つた、そしてその雑魚を肴に昨日のおあまりを頂戴したことである。
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小鮒三つ、句二つ。
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   ぐうたら手記
□拾ふに値するもの[#「拾ふに値するもの」に傍点]
 行乞して、煙草がなくて、私はバツトの吸殻を拾うて喫んだ、そしてつく/″\自分を省みたことである、私は捨てられたものを拾うて生きてゆく人間であればよい!
□拒まれるに値するもの[#「拒まれるに値するもの」に傍点]
 これも行乞中に感じたことであるが、すげなく断られるのがあたりまへだ[#「あたりまへだ」に傍点]、米でも銭でも与へられるのは、袈裟と法衣とに対してだ、私は拒まれるに相当する人間である。
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 九月七日[#「九月七日」に二重傍線] 晴――曇――風。

午前中読書。
午後は托鉢、嘉川を歩く、二時間余。
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今日の功徳   米、一升三合  銭、十四銭。
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今日の行乞相もよかつた、ぢやけん[#「ぢやけん」に傍点]に手をふる女もあれば、わざ/\自転車から下りて下さる男もある、世はさま/″\、人はいろ/\である、私は寂然不動[#「寂然不動」に傍点]であるが。
宵から寝た(石油が少ないからでもある)。
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   読んだものの中から
(木曽節) 月の出頃と約束したに
      月は山端にわしやここに
(伊那節) 葉むら若い衆よう来てくれた
      さぞや濡れつら豆の葉で
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 九月八日[#「九月八日」に二重傍線] 風、風、風。

しづかに読書しつつ、敬君を待つ。
ちよつと農学校へ行く、樹明君は出張不在、Oさんに、敬君来庵の約束を托言して、すぐ戻る、ついでに新聞を読ませて貰つた。
新聞[#「新聞」に傍点]といふものは現代生活からは離れないものになつてゐる、それからも私は離れてしまつてゐる、時々読みたくなるのは、――機会さへあれば、読まずにはゐられないのは、あまりにあたりまへ[#「あたりまへ」に傍点]だらう。
いつからとなく野鼠がやつて来てゐるらしいが、食べる物がないので、昨夜は新らしく供へた仏前のお花を食べてしまうてゐる、私は(そして仏さまも)微苦笑する外なかつた。
油虫だつて同様だ、食べる物がないものだから
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