立ちあがつてまた街へ出かける、そして米と醤油とシヨウガと瓜と茄子と海苔とを買つてきてくれた、さつそくさかもり[#「さかもり」に傍点]がはじまる、うまい/\、ありがたい/\(家嶋さんは最初だから、多少呆れてゐるやうだつた)、酒はある、下物もある、話は話しても話しても尽きない、友情がその酒のやうにからだにしみわたり、室いつぱいにたゞよふ、まつたく幸福だ。
料理は文字通りの精進だつた、そしてとてもおいしかつた。
雑草の中へ筵をしいて、二人寝ころんだところを家嶋さんがパチンとカメラにおさめた。
家嶋さんからは、竹の葉の茶[#「竹の葉の茶」に傍点]のことを教へてもらつた(笹茶[#「笹茶」に傍点]と名づけたらよいと思ふ)。
間もなく夕暮となる、そこらまで見送る、わかれはやつぱりかなしい、わかれてかへるさびしさ。
かへつて、ざつとかたづけて、御飯を炊いて、また一本つけて、ひとりしみ/″\人生を味ふ[#「ひとりしみ/″\人生を味ふ」に傍点]、そしてぐつすりとねむつた。
大山さん心づくしの一瓶、それは醗酵させない葡萄液である、滋養豊富、元気回復の妙薬ださうである、この一瓶で山頭火はよみがへるだらうことに間違はない、日々好日だけれど、今日は好日の好日[#「好日の好日」に傍点]だつた、合掌。
もう一項附記して置きたいことがある、庵としての御馳走は何もなかつたが、雑草を見て貰つたこと、一鉢千家飯[#「一鉢千家飯」に傍点]を食べて貰つたことは、私としてまことにうれしいことであつたのである。
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   黎々火君に
・月へ、縞萱の穂の伸びやう
   澄太君に
・待ちきれない雑草へあかるい雨
 伸びあがつて露草咲いてゐる待つてゐる
 そこまで送る夕焼ける空の晴れる
・あんたがちようど岩国あたりの虫を聴きつつ寝る
   改作
・秋風の、水音の、石をみがく(丘)
・機関庫のしづもれば昼虫のなく
・これが山いちじくのつぶらなる実をもいではたべ(門)
・風ふく草の、鳴きつのる虫の、名は知らない
・つく/\ぼうしいらだゝしいゆふべのサイレン
・厄日あとさきの物みなうごく朝風
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 九月六日[#「九月六日」に二重傍線] 晴。

さびしいけれどしづやかで。――
午後は托鉢をやめて魚釣に行く、行くことは行つたが、なか/\釣れないし、餌もなくなつたし、労れてもゐるので、早
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