るが、殊に、米[#「米」に傍点]、水[#「水」に傍点]、酒[#「酒」に傍点]については細心である、それらを粗末に取扱うてゐる人々を見ると腹が立つ(立てゝはならない腹が!)。
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九月二日[#「九月二日」に二重傍線] 曇、そして晴。
午後、あまり辛気くさいので出かける、ちよつと農学校に寄つて、樹明君と話したり新聞を読んだりする、それから上郷の釣場を偵察した、あまり恰好な場所でもない、水浴して帰庵、蓼数株を手折つたが、萎れて駄目だつた。
野の草花はうれしいものである。
夜はめづらしや、いつどこから来たのか、鼠が天井をあばれまはる、鼠もゐない草庵だつたが。
今日は二百十日だつた、まことにおだやかな厄日であつた、めでたいめでたい。
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ぐうたら手記
□回光返照[#「回光返照」に傍点]の徳。
□生死を超え好悪を絶す、善悪なく愛憎なし。
『物みな我れに可[#「物みな我れに可」に傍点]か[#「か」に「マヽ」の注記]らざるなし[#「らざるなし」に傍点]』
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九月三日[#「九月三日」に二重傍線] 曇、さすがに厄日前後らしい天候。
食べる物がなくなつた、今日は絶食して身心を浄化する[#「身心を浄化する」に傍点]つもりで、朝は梅茶三杯。
前栽の萩――一昨春、黎坊とふたりで山から移植したもの――が勢よく伸びて、ぽつ/\花をひらきはじめた、萩は好きな花、どこといつて見どころはないけれど、葉にも花にも枝ぶりにも捨てがたいもの、いや心をひかれるところがある。
露草の一りん二りん、それも私の机上にはふさはしい。
このごろの蚊の鋭さ、そして蝿のはかなさ。
午前は郵便やさんを待ちつつ読書。
午後は空腹に敗けて近在行乞、何となく左胸部が痛みだしたので、二時間あまりで止めた、米八合あまり頂戴したのはうれしい、さつそくその米を炊いて食べる、涙ぐましいほどおいしかつた、まことに一鉢千家飯、粒々辛苦実である、それを味はひつつ、感謝と反省とを新たにするところにも行乞の功徳[#「行乞の功徳」に傍点]がある(私は行乞しないでゐると、いつとなく我がまゝになる、今日しみ/″\行乞してよかつたと思つたことである)。
今日の行乞相[#「行乞相」に傍点]はすこし弱々しかつたが上々だつた、私としては満点に近かつた。
ぢつと自
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