椹野川尻の六丁といふ場所へ、そして樹明君とも出逢ふ、川は釣れないから沼へ行く、ぼつ/\釣れる、日が傾いて今から釣れるといふ頃、私だけ先きに帰る、途中で六時のサイレンが鳴つた、帰つてすぐ料理、ゆつくりと焼酎の残りを味ひ、たらふく麦飯を食べた。
釣場へ徃復二里あまり、四時間あまり釣つたので、ほどよく労れて睡ることが出来た。
今日の獲物(樹明君から半分は貰つたのだが)――
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中鮒三つ、小鮒八つ(中鮒は刺身にし小鮒は焼く)。
俳句二つ(今日は句作衝動をあまり感じなかつた)。
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釣は逃避行[#「逃避行」に傍点]の一種として申分ない、そして釣しつつある私は好々爺[#「好々爺」に傍点]になりつつあるやうだ、ありがたい。
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・なつかしい足音が秋草ふんでくる(樹明君に)
・壁の穴からのぞいて蔓草
敬治君に三句
逢へば黙つてゐればしめやかな雑草の雨
・秋めいた雨音も二人かうしてをれば
更けてかへるそのかげの涼しすぎる
追憶一句
・お祭の甘酒のあまいことも
追加一句
・草のあを/\はれ/″\として豚の仔が驚いてゐる
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八月三十日[#「八月三十日」に二重傍線] 曇、晴、そしてちよつと夕立。
朝早々とK店員御入来、酒代請求である、財布をさかさまにしてやつと支払ふ、彼は好人物で、当代の商人としてはあまりに好人物である。
昼虫のしづけさしめやかさ。
米田雄郎兄の青天人[#「青天人」に傍点]読後感を書きあげて送る。
親しい友へのたよりに――
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……卒倒以来頓に心地明快、節酒も出来るやうになつて、といふよりも酒への執着がうすくなつて、生き方に無理がなくなつた[#「生き方に無理がなくなつた」に傍点]ので、身心共にやすらかです(まだ、すこやかとはいひきれませんが)、とにかく、生きられるだけは生きて、死ぬるときは死ぬるのがよいではありませんか。……
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今日も午後は六丁釣場へ出かけた、先客一人、なか/\上手に釣つてゐる、私もゆつくり構へこんだが、痔が痛むし、暑苦しいし、その上、近在の河童小僧連が押し寄せてうるさいので、早々切りあげて戻つた。
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獲物は、――鮒二つ、鯊一つ、そして句二つ。
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これでも私
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