ふ(楠)
・かなしい手紙をポストにおとす音のゆふ闇(改作)
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八月廿三日[#「八月廿三日」に二重傍線] 晴、曇つて雨の近いことを思はせる雲行き。
いつからとなく、裏に蟇が来て住んでゐる、彼とはすぐ友達になれさうだ、私には似合の友達だ。
先日から麦飯――米麦半々――にしたので腹工合が至極よろしい、ルンペンだつたために、胃袋が大きく、それを満たさないと気がすまないやうになつてゐるから、そして運動不足で、しかも運動らしい運動は出来ない肉体になつてしまつた私には、麦飯こそ適応してゐる、この意味でまた、南無麦飯菩薩[#「南無麦飯菩薩」に傍点]である。
卒倒してからころりと生活気分がかはつた、現在の私は、まじめで、あかるくて、すなほで、つつましくて、あたたかく澄んで湛へて[#「澄んで湛へて」に傍点]ゐる、ありがたいと思ふ。
こうろぎがはつきりうたひだした。
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ぐうたら手記
□人生的芸術主義[#「人生的芸術主義」に傍点]
芸術的人生主義
□俳句が、ぐつとつかんでぱつとはなつこと[#「ぐつとつかんでぱつとはなつこと」に傍点]を特色とするならば、短歌は、ぢつとおさへてしぼりだすこと[#「ぢつとおさへてしぼりだすこと」に傍点]を特色とするだらう。
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八月廿四日[#「八月廿四日」に二重傍線] 朝は曇つて厄日前の空模様だつたが、おひ/\晴れた。
早起、といふよりも寝なかつた。
出来るだけ簡素に[#「簡素に」に傍点]――生活も情意もすべて。
まだ身辺整理が片付かない、洗濯、裁縫、書信、遺書、揮毫、等、等、等。
農学校に樹明君を訪ねて、切手をハガキに代へて貰ふ。
身心ゆたかにして[#「身心ゆたかにして」に傍点]、麦飯もうまい[#「麦飯もうまい」に傍点]、うまい[#「うまい」に傍点]。
畑を耕して菜を播く準備をして置く、土のよろしさと自分のよわさとを感じる。
夕方、樹明君がやつてきて、佐野の親戚へお悔みに行くから、いつしよに行かうといふ、OK、駅へ行く、六時の電車が出るまでにはまだ三十分ある、Y屋で一杯ひつかける、佐山では手早く用事をすまして、停留場まで戻つてくると、一時間ばかり早い、そこでまた駅前の飲食店で一本二本、小郡へ帰着したのが九時、もう一度飲むつもりで、ぶら/\歩きまはつたが、
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