して酒を味ひつつ山水を観る[#「悠然として酒を味ひつつ山水を観る」に傍点]、といつたやうな気持でありたい。
生を楽しむ[#「生を楽しむ」に傍点]、それは尊い態度だ、酒も旅も釣も、そして句作もすべてが生の歓喜であれ。
友よ、山よ、酒よ、水よ、とよびかけずにゐられない私。
八月十日の卒倒菩薩[#「八月十日の卒倒菩薩」に傍点]は私から過去の暗影[#「過去の暗影」に傍点]を払拭してくれた、さびしがり、臆病、はにかみ、焦燥、後悔、取越苦労、等々からきれいさつぱりと私を解放してくれた。……
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・餓えてきた蚊がとまるより殺された
・草にすわつて二人したしく煙管から煙管へ
・ずうつと電信棒が青田風
・ぼんやりしてそこらから秋めいた風(眼鏡を失うて)
・すすき穂にでて悲しい日がまたちかづく
・ゆう潮がこゝまでたたへてはぶ草の花
・つきあたれば秋めく海でたたへてゐる
   旅中
・こんやはここで、星がちか/\またたきだした
・寝ころぶや知らない土地のゆふべの草
・旅は暮れいそぐ電信棒のつく/\ぼうし
・おわかれの入日の赤いこと
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 八月廿二日[#「八月廿二日」に二重傍線] 曇、だん/\晴れて暑くなつた。

今日も身辺整理、文債書債を果しつつ。
机上の徳利に蓮芋の葉を活ける、たいへんよろしい、芋の葉と徳利と山頭火[#「芋の葉と徳利と山頭火」に傍点]とは渾然として其中庵の調和をなしてゐる。
方々から見舞状、ありがたし/\。
天たかく地ひろし[#「天たかく地ひろし」に傍点]、山そびえ水ながるゝ感[#「山そびえ水ながるゝ感」に傍点]。
K店員が立ち寄つて昼寝をする。
花売老人が来て縞萱を所望する、七十三才だといふ、子はないのか、孫はないのか、彼を楽隠居にしてあげたい。
昨夜も今夜も少々寝苦しい、時々狭心症的な軽い発作、読書しないで思索をつゞけた。
鼠だらうか――鼠はゐない筈だが――仏壇をがたびしあばれて、とうとう観音像をひつくりかへした、鼠とすれば――油虫にはそれほどの力はないから――食べる何物もないので、腹を立てたのでもあらうか。
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・考へつづけてゐる大きな鳥が下りてきた
・蟻がひつぱる大きい獲物のおもくて暑くて
   地蔵祭
・炎天のお供へものをめぐつて小供ら
   黎々火君に、病中
・はる/″\ときて汲んでくれた水を味
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