なごや[#「をなごや」に傍点]の鏡子居にをなごと寝ずにひとり泊る。
八幡は煙突が多い、食べものやが多い、女が多い、ウソもカネも多いだらう!
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小郡駅待合室
汽車がいつたりきたりぢつとしてゐない子の暑いこと
・ふるさとの或る日は山蟹とあそぶこともして
飲めるだけ飲んでふるさと
・酔うてふるさとで覚めてふるさとで
・ふるさとや茄子も胡瓜も茗荷もトマトも
・急行はとまりません日まはりの花がある駅
・風は海から冷たい飲みものをなかに
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七月二十八日[#「七月二十八日」に二重傍線] 晴れて暑い。
温柔郷[#「温柔郷」に傍点]の朝はおそい、十一時近くなつて四人連れでバスで松の寺へ。――
私は井上さんの奥さんから頂戴した黒絽の夏羽織をりゆう[#「りゆう」に傍点]と着流してゐる、それが俊和尚を驚喜せしめた。
もつたいなくも本堂の広い涼しいところで会食、酒、ビール、てんぷら、さしみ、お釈迦さんもびつくりなすつたらう、観音さまはいつもやさしい。
かいめ、くさびといふ魚、水桃もおいしかつた。
海水浴風景、さういふ風景と私とはもはや縁遠くなつた。
浜万年青、一名いかりおもと、それを愛して俊和尚が植えひろげてゐる。
私の句碑(松はみな枝たれて南無観世音)の前で撮影、私も久しぶりに法衣をも[#「も」に「マヽ」の注記]とうた。
私一人滞在、寺の夜はしづかだつた。
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ぐうたら手記
□世間体や慾で営まれる世界はあまりに薄つぺらだ。
義理や人情で動く世界もまだ/\駄目だ、人間のほんたうの世界はその奥にある、そこから、ほんたうの芸術が溢れ流れてくるのである。
□金持の君は、金さへあれば買はれるものを買ふのもわるくあるまい、貧乏な私は金では買へないものを求めるのもよからうではないか。
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七月二十九日[#「七月二十九日」に二重傍線] 晴。
朝酒、それから和尚さん飯野さん、清丸さんたちに送られて、バスを乗り換へ乗り換へ飯塚へ。
今日はバスからバスへ、トクリからトクリの一日だつた。
Hで健と会飲、だいぶ痩せて元気がないから叱つてやつた、一年一度の父子情調だ。
待つた芸者と仲居とが口をそろへて曰く、親子で遊ばれる方は飯塚にもめつたにございません、――これはいつたい褒められた
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