、油虫が私を神経衰弱にする、憎らしい。
また徹夜してしまつた、心臓が痛くなつて、このまゝ死ぬるのではないかと思ふたが、大したことはなかつた、そして私の覚悟[#「私の覚悟」に傍点]は十分でない、私といふ人間は出来てゐないことを考へさせられた。……
人生[#「人生」に傍点]――生死[#「生死」に傍点]――運命或は宿命[#「運命或は宿命」に傍点]について思索しつゞけたが、今の私にはまだ解決がない!
午後、四時四十分の上りで佐野へ。――
故郷の故郷、肉縁の肉縁、そこによいところもあればよくないところもある、いはゞあたゝかいおもさ[#「あたゝかいおもさ」に傍点]!
山家の御馳走になる、故郷の蚊[#「故郷の蚊」に傍点]といへば何だか皮肉だけれど、それも御馳走の一つだらう。
酔うて管を巻く、安易な気持だ。
[#ここから2字下げ]
悼(厳父を失へる白雲兄に)
・ゆふ風の夏草のそよぐさへ
(父を死なせた友に) 山頭火合掌
・ゆふべすゞしくうたふは警察署のラヂオ
・炎天の蓑虫は死んでゐた
・蛙よわたしも寝ないで考へてゐる
・いつまで生きる竹の子を竹に(改作)
・炎天、変電所の鉄骨ががつちり直角形(改作)
・さういふ時代もあるにはあつた蝉とる児のぬきあしさしあし
・暑さきはまり蝉澄みわたる一人
・ゆふべはよみがへる葉に水をやる
・山はゆふなぎの街は陽のさす方へ
・炎天まつしぐらにパンクした(自動車)
逸郎君に
・百合を桔梗に活けかへて待つ朝風
・ちつともねむれなかつた朝月のとがりやう
・夜あけの風のひえ/″\として月草ひらく
[#ここで字下げ終わり]
七月二十七日[#「七月二十七日」に二重傍線] 曇。
早起、朝酒、九時の下りで九州へ。――
初めて汽車の食堂にてビール一本さかな一皿。
門司駅一二等待合室にて黎々火君を待ち合せ、岔水君をよびよせてもらつて、アイスクリームを食べつゝ会談。
関門風景[#「関門風景」に傍点]はいつもわく[#「く」に「マヽ」の注記]るくない。
それから八幡へ、――鏡子君、井上さん、星城子君といつしよに、食べたり飲んだり、話したり。
入浴、私の体重十四〆弐百、折から安売の玉葱に換算すればまさに壱円四十弐銭の市価(二等品で一〆十銭だから!)。
丸久食堂の隣席はきつと結婚見合、この結婚不成立と観たは僻目か、女の方が男よりもづう/\しかつた。
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