のか貶されたのか。
駅前の宿屋へ自動車で押し込められてしまつた、こゝの印象はよくなかつた。
[#ここから2字下げ]
・真夏の真昼のボタ山のあるところ
 炎天のボタ山がならんでゐる
   改作一句
 枯れたすゝきに日が照れば誰か来てくれさうな
[#ここで字下げ終わり]

 七月三十日[#「七月三十日」に二重傍線] 暑いこと、暑いこと。

緑平居へ、うれしいな、友の中の友。
温情、御馳走、涼風、ラヂオ。……
[#ここから2字下げ]
   緑平居
・葉ざくらがひさ/″\逢はせてくれたかげ
・みんないつしよにちやぶ台へまたてふてふ
[#ここで字下げ終わり]

 七月三十一日[#「七月三十一日」に二重傍線] 晴れやかに。

八幡で星城子君のニコニコ顔に逢ひ、別れてからシネマ見物、夜は戸畑の多々楼君と同伴して若松の荒瀬さんを徃訪、このあたりの夜景はうつくしい、製鉄所の礦滓はことにうつくしかつた。

 八月一日[#「八月一日」に二重傍線]

再び関門へ。――
黎々火君と共に岔水居で会談会飲。
黎君に若い日本人としての情趣があり、岔君に近代都会人らしいデリカシーがある。
岔水居泊、琴の音、蛙の声、港の灯。
今日観たシネマは面白かつた、サトウハチローの裏街の交響楽[#「裏街の交響楽」に傍点]には新味はないが持味があつた。
暑苦しく寝苦しかつた。
[#ここから2字下げ]
   岔水居
 したしく逢うてビール泡立つ
   或る旧友と会して
・寝顔なつかしいをさな顔がある
 朝ぐもり海へ出てゆく暑い雲
[#ここで字下げ終わり]

 八月二日[#「八月二日」に二重傍線]

朝酒はありがたい、もつたいない。
岔水君に送られて下関へ。――
私が使用する送られて[#「送られて」に傍点]といふ言葉は食事、切符、等々を与へられることをも意味してゐる、あゝもつたいない。
下関では飲み歩いた、饒舌り散らした、とう/\黎々火君の厄介になつた。
シネマは面白かつた。
小遣も興味もなくなつたので、駅の待合室で一夜を明かした。

 八月三日[#「八月三日」に二重傍線]

早朝帰庵。
愉快な旅の一週間だつた、友はなつかしい、酒はおいしい、ビールもよろしい、鮎も好き、……労れて、だらけて、こんとんとして眠つた。

 八月四日[#「八月四日」に二重傍線]

ぼう/\ばく/\。
関日の波多君が小学校の先生二人を同伴して来
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