つた、はだしであるいて。
ひそかに心配してゐたSはおとなしく留守番をしてゐた(最初はやりきれないらしかつたと見えて、座敷の障子をつきやぶつて室内にとびこんだらしい、その障子のやぶれも何となく微笑ましいものだつたが)、彼にも食べさせ、私も食べた。
○何といふおとなしい犬だらう、上品で無口で、人懐かしい、犬小屋は樹明君がいつか持つてきた兎箱、二つに仕切つてあるから一つは寝室で、一つは食堂、そこには碗一個と古筵一枚、――それで万事OKだ!
水音がどこかにある、虫の声が流れるやうだ、溢れてこぼれるやうだ、寝覚はさびしい、しかしわるくない。
○物の音[#「音」に傍点]が声[#「声」に傍点]に、そして物のかたち[#「かたち」に傍点]がすがた[#「すがた」に傍点]にならなければウソだ、それがホントウの存在の世界[#「存在の世界」に傍点]だ。
○酔ひたい、うまいものがたべたい、――呪はれてあれ。
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 水のながるるに葦の花さく
・てふてふとべばそこここ残る花はある
・あひびきは秋暑い街が長く
・あすはおまつりの蓮をほるぬくいくもり
・掃きよせて焚くけむりしづかなるかな
・はれたりふ
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