何を食べてもうまかつた私が、何を食べてもうまくない私となつた、横着な私となつたのだ、ニヒリストとなつたのだ。
ちよつとポストまで、ちよつと一杯ひつかけたが苦しかつた、何とニガイアルコールだらう。
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・わらやしづくする朝の虫のなく
・しんかんとして熟柿はおちる
・つく/\ぼうしもをはりの声の雨となり
・夜のふかくこほろぎがたたみのうへに
・灯火一つ虫がとんできては死ぬる
・彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり
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九月十八日[#「九月十八日」に二重傍線]
晴、まつたく秋だ。
久しぶりに入浴、髯など剃つて、ゆつたりした気分で、寝ころんでゐると、夕方、約の如く敬治君来庵、間もなく、樹明君も来庵、お土産の酒と蒲鉾とで一杯ひつかけて街へ。
そして待望の街の灯[#「街の灯」に傍点]を観た、やつぱりよかつた、チヤツプリンの本質に触れたやうな思ひがした、日本映画は新派悲劇的で興がなかつた。
おとなしく敬君といつしよに帰庵、今夜もよくはねむれなかつた、一時間ばかりはぐつすりねむつたが。
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・あさつゆのしそのはなこぼれては
・藪のなか曼
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