の峰とほく
・暑さ、この児はとても助かるまい(或る家にて)
・もう秋風のすゝき穂をそろへ
 虫なくや投げだした私なれども
・しんみりあほぐ空のゆふ月があつた
・山のしたしさは水音をちこち
 雑草ふかく見えかくれゆく馬のたてがみ

・炎天の鴉一羽で啼く
・こゝろあらためてつく/\ぼうし
・あきないひまなへちまなどぶらさがり(山口にて)
・ふときてあるくふるさとは草の花さかり
・炎天のレールまつすぐに
・炎天のかげはとびかふとんぼ

   八月廿七日、故郷の妹の家を訪ねて
・せんだんもこんなにふとつたかげで汗ふく
・腹いつぱい飲んで寝るふるさとの水
[#ここで字下げ終わり]

 九月六日[#「九月六日」に二重傍線]

曇、雨、晴、――私の心のやうだ。
昨夜も不眠、徹夜乱読するより外なかつた。
○まことに借金はサナダムシの如し。
身辺整理、いつでも死ねるやうに、いつ死んでもよいやうに。――
○なつめ[#「なつめ」に傍点]は誰にもかも[#「も」に「マヽ」の注記]はれなくて、なつてうれて落ちる、時代おくれとは人間のいふこと、なつめそれ自身のやすけさを見よ。
すつかり秋、あまりに早い秋、虫がいそがしく虫のいのちをひろげる。……
酒精中毒の徴候として、爪に筋があらはれた!
長い夜がいよ/\長い、あゝ。
○無理のない生活[#「無理のない生活」に傍点]、悔のない生活[#「悔のない生活」に傍点]、本然の生活[#「本然の生活」に傍点]。
[#ここから2字下げ]
・空も秋がきた地しばり草の花も
・つくつくぼうしよ死ぬるばかりの私となつて
・死ねる薬が身ぬちをめぐるつくつくぼうし
・今が最後の、虫の声の遠ざかる
・家があつて墓があつて草が青くて
 草の中ゆく私の死のかげ
[#ここで字下げ終わり]

 九月七日[#「九月七日」に二重傍線]

曇つた空から雨が落ちる、まつたく秋だ。
恥知らずの手紙を二つ書く、恥はむしろ洒した方がホントウだらう。
○暗中在明、明中在暗、明暗雙々底。
樹明君を学校に徃訪する、数日ぶりに話した。
四日ぶりに、人間に会うて話し、酒を一杯飲んだのである。
沈黙は私をいら/\させ、そしてじめ/\させる。
○不幸な鰐[#「不幸な鰐」に傍点]! 古い文藝春秋で此一文を読んで、たいへん動かされた。
○門外不出、いや不能出。
○とても心臓が悪い、それはむしろ私のよろこびである、私は
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