従身口意之所生――
一切我今皆懺悔――
[#ここで字下げ終わり]
カルモチンのおかげで、やつとねむつた。
八月一日[#「八月一日」に二重傍線]
晴、転一歩、歩々新。
前後際断、たゞ即今の当念に生きろ!
身辺整理、整理しても整理しても片付かない。
沈欝たへがたし、自己に籠つて自己を罵る。
暑さきびし、はだかでよこたはる。
死の方へ、――死に面して、――一切我今皆懺悔。
知死期か致死期か。
ちよつと草刈りしてさへ溜息が出る、情ない肉体となつたものではある。
つく/\ぼうしが山から里へ。
老来ます/\惑ひ多く、悔いることばつかりなり。
八月二日[#「八月二日」に二重傍線]
朝ぐもり、今日も暑いことだらう。
とう/\徹夜だつた、あたまは冴えてゐるけれどからだが労れきつてゐる、この情態がつゞけば自滅の外はない。
カルモチンを飲んでも眠れないとはみじめだ、やつぱり。
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カルモチンよりアルコール
ちよいと一杯やりましよか
[#ここで字下げ終わり]
一杯やりたいな、やりたいなだ!
△或る時は死にたい人生[#「死にたい人生」に傍点]、或る時は死ねない人生[#「死ねない人生」に傍点]。
或る時は仏にちかく、或る時は鬼にひとしい。
自分のうちに動物を見出すことはかなしい。
やつと夜が明けた、朝日がよかつた。
油虫め、食べるものがないから、本をなめマツチをかぢる、そして花までたべる、気の毒と思はないではないけれど、食べ物を与へる気にはなれない、油虫よりも蝿や蚊の方がよい、蛇よりも嫌な油虫だ。
今日も身辺整理、いつ死んでもよい用意をして置かなければならない、遺書も書きかへなければならない。……
[#ここから2字下げ]
・風がすゞしく吹きぬけるので蜂もてふてふも
・死ねる薬をまへにしてつく/\ぼうし
・草の青さをしみじみ生き伸びてゐる
・住みなれて草だらけ
・のぼる陽をまつ糸瓜の花とわたくしと
・さらりと明けてゐるへちまのはな
・朝月はすずしいいろの桔梗がひらく
炎天のヱンジンのまはるとゞろき
・なんとかかんとか蝿もつれてきて
・こゝろむなしくて糸瓜咲く
炎天、はてもなくさまよふ
・炎天、否定したり肯定したり
・右は海へ左は山へ木槿咲いてゐる
ひとりしんみりとゐてかびだらけ
・なんと朝酒はうまい糸瓜の花
・炎天ぶらりと糸瓜がならんで
・ゆく手とほく雲
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