得の境地[#「自得の境地」に傍点]がなければならない、芸術は、殊に俳句はそこから生れる。
管絃祭第一夜、ぽん/\花火があがる。
哀しい夢だつた。……
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・しろいてふてふにいつうまれたかきいろいてふてふ
・蚊帳越しにまともに月が青葉のむかうから
・月の水鶏がせつなく啼いて遠ざかる
郵便やさんがばさりと朝日へ投げだしてくれた
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七月廿八日[#「七月廿八日」に二重傍線]
快晴、涼しい快い夏の朝を味ふ。
身辺整理。
桔梗が咲く、さつそく壺に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]す、その姿、その色、すべてがたまらなくよい、山桔梗はことに。
M君の友情を味ふうちに、欝屈したふさぎの虫が反逆して[#「ふさぎの虫が反逆して」に傍点]、どろ/\になつてしまつた、そして樹明君の友情をも攪乱してしまつた。……
夕方、さうらうとして帰庵すると、待ちに待つた中原さんが来て待ちくたぶれて帰つたといふ置手紙がある、地団太踏んでも追つつかない、悔と恥と詫とを痛感しながら、そのお土産を戴く、酒、卵、さうめん、バナナ。……
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・くらがり風鈴の鳴りしきる
・炎天の鴉の声の濁つてゐる
・月あかり白い薬を飲むほどは
・草ふかくここに住みついて涼しく
・炎天の地しばり草の咲きつづく
・おそい月が出てきりぎりす
・ねむり薬もねさしてはくれない月かげ
・夜蝉よここにもねむれないものがゐる
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七月廿九日[#「七月廿九日」に二重傍線]
曇、こんな中日[#「中日」に「マヽ」の注記]だつた、何といふ情ない。……
樹明君から最後通牒[#「最後通牒」に傍点]みたいな葉書がきた、どうにも仕方がないから放任する。……
七月三十日[#「七月三十日」に二重傍線]
晴、昨日から寝つづけてゐる。
夜半、酔樹明君が来て寝る、彼も無言、私も無言、夜が明けると帰つていつた、彼も無言、私も無言、この無言はまことに千万無量のものだつた。
トマトを食べて、すこし心がなごんだ。
こん/\と睡つた。
節酒[#「節酒」に傍点]するより外に方法なし、とても禁酒[#「禁酒」に傍点]なんぞは出来ない。
七月三十一日[#「七月三十一日」に二重傍線]
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我昔所造諸悪業――
皆由無始貪瞋痴――
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