なかつたけれど、熊本はやつぱり鬼門だつた。
○出かけて、帰つてきて、庵のよさ、自分のよわさがよく解る、山頭火には其中庵の外におちつくところなし。
柿の落葉、茶の花、みんなよろしい。
がつかりして、ぐつすり寝た。
[#ここから2字下げ]
つかれてかへつてきて茶の花
・伸き[#「伸き」に「マヽ」の注記]のびてゐて唐辛赤うなる
・すすきをばなもうららかにちるや
・まいてまびいてつけてきざんでかみしめてゐる
水前寺にて
・水は秋のいろふかく魚はういてあたまをそろへ
・柿が赤くて住めば住まれる家の木として
[#ここで字下げ終わり]
十一月二日[#「十一月二日」に二重傍線]
晴、風。――
[#ここから2字下げ]
さびしけれどもしづかなり
まづしけれどもやすらかなり
[#ここで字下げ終わり]
すなほに、すなほに、そしてすなほに。
夜、樹明来、しんみりと話す。
十一月三日[#「十一月三日」に二重傍線]
しぐれ、明治節、農学校運動会の騷音。
東京の井師五十歳祝賀句会へ打電――
[#ここから2字下げ]
アキゾラハルカニウレシガルサントウカ
[#ここで字下げ終わり]
野菊、りんだう、石蕗、みぞそばの花、とり/″\に好きだ。
[#ここから2字下げ]
・みんな働らく刈田ひろ/″\として
・あぜ豆もそばもめつきり大根ふとつた
・たつた一つの、もぎのこされた熟柿をもがう
・垣も茶の木で咲いてゐますね
・秋もをはりの夜風の虫はとほくちかく
[#ここで字下げ終わり]
十一月四日[#「十一月四日」に二重傍線]
終日読書。
私は熊本行を契機として転向、といふよりも復帰することが出来た。……
○……持つべきものは子なりけり、私は私を祝福しなければなるまい。
方々へたよりを書く。
十一月五日[#「十一月五日」に二重傍線]
晴、何とうらゝかな、曇、何としづかな。
洗濯、施肥、そして入浴、一杯ひつかけました。
櫨がもう紅葉してゐる、雑木紅葉がだん/\うつくしくなる、雑草は日にまし枯れてゆく。
○濁酒から泥水へ――私の一生はかうした経路をたどりつゝありはしなかつたか!
うれしい事は、アルコール渇望[#「アルコール渇望」に傍点]が薄らぎつゝあることである、酒に対する執着さへなくなれば、私は私の欣求する生活に入ることができる。
○動かうにも動けない、しばらくぢつとして、身を養ふ、いや心
前へ
次へ
全57ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング