あつたのに、こちらはもう、麦の穂が出揃うて菜種が咲き揃うて、さすがに南国だ。
ありがたいたより、今日は作郎老からのそれ。
食べることは食べるが、味へない。
△誰か通知したと見えて、健が国森君といつしよにやつてくるのにでくはした、二人連れ立つて戻る、何年ぶりの対面だらう、親子らしく感じられないで、若い友達と話してゐるやうだつたが、酒や鑵[#「鑵」に「マヽ」の注記]詰や果実や何や彼や買うてくれた時はさすがにオヤヂニコニコ[#「オヤヂニコニコ」に傍点]だつた(庵には寝具の用意がないので、事情報告かた/″\、夕方からS子の家へいつてもらつた、健よ、平安であれ)。
午後、樹明君がまた鈴木周二君と同行して来庵(周二君は徴兵検査で帰省中、私の帰庵を知つて見舞はれたのである)、飲む食べる饒舌る、暮れて駅まで送る。
今日はよい日だつた、よい夜でもあつた。
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・肌に湿布がぴつたりと生きてゐる五月
 草からとんぼがつるみとんぼで
 五月、いつもつながれて犬は吠えるばかりで
 こんなところに筍がこんなに大きく
・おててをふつておいでもできますさつきばれ
・雑草につつまれて弱い心臓で
  
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