ここで字下げ終わり]

 三月廿三日[#「三月廿三日」に二重傍線]

おくれて九時ちかくなつて宇品着、会社に黙壺君を訪ねる、不在、さらに局に澄太君を訪ね、澄太居に落ちつく、夫妻の温情を今更のやうに感じる。
樹明、白船、せい二、清恵、澄太、等、等、等、春風いつもしゆう/\だ、ぬくい/\うれしい/\だ。
夜は親しい集り、黙壺、後藤、池田、蓮田の諸君。
近来にない気持のよい酒だつた、ぐつすりと眠れた。

 三月廿四日[#「三月廿四日」に二重傍線]

おこされるまで睡つてゐた、夢は旅のそれだつた。
春雨、もう旅愁を覚える、どこへいつてもさびしいおもひは消えない。……
澄太君が描いてくれた旅のコースは原稿紙で七枚、それを見てゐると、前途千里のおもひにうたれる、よろしい[#「よろしい」に傍点]、歩きたいだけ歩けるだけ歩かう[#「歩きたいだけ歩けるだけ歩かう」に傍点]。
青天平歩人[#「青天平歩人」に傍点]――清水さんの詩の一句である。
しぜんに心がしづみこむ、捨てろ、捨てろ、捨てきらないからだ。
放下着[#「放下着」に傍点]――何と意味の深い言葉だらう。
澄太君の友情、いや友情といつてはいひつくせ
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