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 五月十五日[#「五月十五日」に二重傍線]

今日も好いお天気。
街へ、豆腐買ひに、むろん酒も買ひに。
草も人もしづかなるかな。
播きおくれた山東菜を播く、芽が出ればよいが。
初夏の暑さだ、しかし私はまだ綿入を着てゐる、病人くさいな。
夕方から農学校へ行く、今晩は樹明宿直なので、一杯やらうといふ約束が一昨日ちやん[#「ちやん」に傍点]と成り立つてゐるのである、すこし早すぎたのでそこらを見てまはる、花草はうつくしいが、豚は、食べてゐる豚も寝てゐる豚も、仔豚も親豚もいやらしくつてたまらなかつた、これは必ずしも、ブルヂヨアイデオロギーのせいではあるまいて。
二人で飲んで(彼が飲まないので、殆んど私だけが飲んで)、いゝ機嫌になつて戻つて寝る、まだ十時前だつた。
樹明君は熱があるので、何を食べてもうまくないといふ、私は回復期でもあり粗食してもゐるので、何を食べてもうまいといふ、今夜の場合でも、この蒲鉾はまづいといつて二三片しか口にしない彼、これはうまいよと一枚食べつくした私、寄宿舎のライスカレーなんぞ閉口とばかり二口三口しか食べやうともしない彼、そんなにまづくはな
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