君ほんたうありがたう、ありがたう。
夕暮、帰庵すると、飲みつゝある樹明を発見する、彼はまことに酒好きだ、少々酒に飲まれる方だが。
労れた、よい意味で、――今夜はよくねむれるだらうと喜んでゐると、T子再来、詰らない事を話して時間を空しくする、しめやかな雨となつたが寝苦しかつた、困つた。
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・生きて戻つて五月の太陽
・けさは水音の[#「の」に「が」の注記]、よいことが[#「が」に「の」の注記]ありさうな
 葱坊主、わたしにもうれしいことがある
 湯あがりの、かきつばたまぶしいな(病後)
・竹の葉のうごく[#「うごく」に「そよぐ」の注記]ともなくしづかなり
・土は水はあかるく種をおろしたところ(苗代)
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 五月十日[#「五月十日」に二重傍線]

雨、風、朝酒が残つてゐた、しめやかな一日だつた。
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・いつまで生きることのホヤをみがくこと
・ひとりをれば蟻のみちつづいてくる
・草の青さできりぎりすもう生れてゐたか
・胡瓜植ゑるより胡瓜の虫が暑い太陽
 風ふくゆふべのたどんで飯たく(追加)
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 五月十一
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