・夕立つや若竹のそよぎやう
・青田も人も濡れてゐる雨のあかるく
・こゝまでさくらが、窓あけておく
・あすはかへらうさくらがちるちつてくる(追加)
・病み臥してまことに信濃は山ばかり(飯田にて)
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 七月廿二日[#「七月廿二日」に二重傍線]

曇、夕立、身心やゝよろし、豪雨こゝろよし。
柿が大きくなつた、葉からのぞいてきた。
死をおもふ。……
樹明来、サケとトウフとカルモチンとザツシとを持つて。
酔ふ(酔ひでもしなければやりきれなくなつてゐた私だつた)、そして山口へ、たゞ歩いた。
△酔如件[#「酔如件」に傍点]――これで何もかも解消!
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・虫が火のなか声もろともに無くなつた
・そばの花もうてふてふきてゐる
・さびしさにたへて草の実や
・さびしい手が藪蚊をうつ
・月夜風呂たく麦わらもにぎやかに燃えて
・宵月ほつかりとある若竹のさき
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 七月廿三日[#「七月廿三日」に二重傍線]

晴、シア[#「ア」に「マヽ」の注記]ヤ/\/\(これは蝉)ヒヨロ/\/\(これは私)。
朝酒三[#「三」に「マヽ」の注記]三杯ひつかける、これで先日来、不眠と疲労からくる、イラ/\クヨ/\がとんでしまつた、ほがらかな気分でラツキヨウを買うて戻つて漬けた。
やつぱり私は私だつたのだ、山頭火は山頭火以外の何物でもありえないのだ!
おもしろな[#「ろな」に「マヽ」の注記]、世の中は、人の身は。
うちのひよろ/\へちまも咲きだした。
待ちかまへてゐる敬坊も中原さんもやつてこない。
△壺の白木槿がしほれたので、鬼百合に活けかへる、前者はリフアインされたレデーのやうだつたが、後者は厚化粧した田舎娘に似てゐる。
胃痛、そして読書。
△自己忘却[#「自己忘却」に白三角傍点]! よろしい、酒を飲んで酔ふ場合ばかりでなく、任意自由にさうありたい。
ねむれた、ありがたかつた、カルモチンよりアルコールだ。
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・うつ手を感じて街の蠅うまく逃げた
・うまく逃げた蠅めが壺の花のうへに(再録)
・モシモシよい雨ですねよい酒もある待つてゐる(樹明に)
・どしやぶりのそのおくで蠅のなく
・草にてふてふがきてあそぶ其中一人(本文に)
・ランプ消せば月夜の雨が草に地べたに
・ゆふぐれせつなくむしあつくうめくは豚か
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 七月廿四日[#「七月廿四日」に二重傍線]

雨、万物がうるほうてゐる、だん/\晴れて暑くなつた。
たよりいろ/\、とりわけて緑平老の手紙はいつもうれしい。
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草にてふてふがきてあそぶ其中一人
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△白い蝶に黄ろい蝶がまじつてゐる。
樹明君から来信、お客はどんな都合かといふ、中原さんも伊東さんも、どうしたのかやつてこない、腹を立ててはならないとは思ふけれどやつぱり腹が立つてしようがない。……
△裏山でもうつく/\ぼうしが鳴きはじめた。
夏の夜の散歩はよいね、方々で夏祭。
めづらしい熟睡快眠だつた。
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・山のすがたが三十五年の夢(山口にて)
・ここで死にたい萱の穂の散りてはとぶ
・山あをあをと死んでゆく
・みんな死んでしまうことの水音
・ぽとりと青柿が炎天の音
・しがないくらしの、草がやたらにしげります
・夏の夜あるけばいつか人ごみの中
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 七月廿五日[#「七月廿五日」に二重傍線]

曇、少雨、まるで梅雨のやうな土用である。
緑平老から大泉[#「大泉」に傍点]到来、これはまたよい雑誌だ、井師としみ/″\話すやうな気がする、心がぴたりと心に触れる。
※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]木と移植、昨年の桐はついたが、今年のは三本とも枯れた、莱[#「莱」に「マヽ」の注記]竹桃はうまく根ついた、白木槿が根ついてくれるとほんとうにうれしいのだが。
蠅と蚊と油虫と、彼等は毎日私を考へさせる!
△いつみても、なんぼうみてもあかない雑草、みればみるほどよい雑草、私を[#「を」に「マヽ」の注記]雑草をうたはずにはゐられない。
△わたくしごゝろと個性とは別物だ、私心がなくして[#「私心がなくして」に傍点]、そこで個性が発揮される[#「そこで個性が発揮される」に傍点]のである。
△蜩が鳴いた、しつかり鳴いてくれ。
△生活の糧となる[#「となる」に傍点]仕事、糧にする[#「にする」に傍点]仕事ではない。
△宗教的真理の芸術的表現[#「宗教的真理の芸術的表現」に傍点]、それが私の仕事だ。
△自然(生活もその一部分)――律動《リズム》――俳句的詠出。
△生活に即する[#「生活に即する」に傍点]といふことは生活の奴隷となることではない。
一時頃、樹明来庵、例の如くお辨
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