げ終わり]
七月二十日[#「七月二十日」に二重傍線]
曇、――后晴か! と思つてゐたら降りだした!
△垣根から白い花[#「白い花」に傍点]が咲いてゐた、私はぢつと眺めてゐたが、たまらなくなつて、一枝下さいといつたら、若い妻君が、さあどうぞといつてナイフまで持つてきてくれた、彼女はおなじく白い花だつた。(白木槿の花)
彼のハズは幸福だらう、幸福でなくちやならない。
△一切は死に対する心がまへ、死についての身じまひではなからうか、もとより生や生の全機現[#「現」に「マヽ」の注記]、死や死の全機現ではあるが。
△うまい句とよい句[#「うまい句とよい句」に傍点]、――これが解らなければダメだ、私としてはうまい句を望まない、よい句を作りたい、それは真実の句[#「真実の句」に傍点]だ。
どうにもやりきれなくなつて、あの店この店とヤケで二三杯飲み歩いた、もしも人生に、いや私に酒といふものがなかつたら!
とにもかくにもよい雨だつた。
ねむれた、十時から五時まで、夢が夢につゞいたが。
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・草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ
・ゆふなぎを、とんでゐるてふねてゐるてふ
・田の草をとるせなかの子は陽にやかれ
・めつきり竹になつてしづくしてゆふ風に
・ここを死場所として草はしげるまゝに
・汲む水もかれがれに今日をむかへた
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七月廿一日[#「七月廿一日」に二重傍線]
曇、時々雨、よその夕立のこぼれだらう。
熊蝉最初の声、油蝉も鳴いた。
△芭蕉撰集を読む、それは碧巌録のやうである、私には。
△豚の如く[#「豚の如く」に傍点]――まつたく私は豚のやうに生活、いや、生存してゐる、異るところは、肉が食料として役立たないばかりか、焼却の手数を煩はすことだ!
△私はなるたけ虫類を殺さないやうにしてゐるが(雑草を茂るがまゝに茂らせておくとおなじく)、油虫[#「油虫」に傍点]だけは見あたりしだい殺さずにはゐられない、彼等は食器を汚して困る、物をいためて困る、本でさへかじる、――しかし、私はいつも私のヱゴイズを[#「ズを」に「マヽ」の注記]恥ぢる。
ねむれない、ねむれない、雨声を聴く、虫声に耳傾ける、そしてとろ/\とすれば、何といふ夢だ! 恥を知れ!
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・百姓なれば石灰をまく石灰にまみれて炎天
・朝はすずしくお米とお花とさげてもどる
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