五日
 〃 廿六日
 〃 廿七日
 四月廿八日[#「四月廿八日」に二重傍線]



[#ここから2字下げ]
大死一番 天地一枚

莫妄想

無常迅速
時不待人
光陰可惜
慎勿放逸

裁断前念後念

大事了畢
身心脱落
断命根
己平究明
大我爆発
三昧発得

天地同根 万物一体
   □
山はしづかにして性を養ひ、水は動いて情をなぐさむ
諸行無常、無常迅速、
諸法常示寂滅相、
眼前景致、口頭語。
[#ここで字下げ終わり]

 四月廿九日[#「四月廿九日」に二重傍線]

四月廿九日、暮れて八時過ぎ、やうやく小郡に着いた、いろ/\の都合で時間がおくれたから、樹明君も出迎へてゐない、労[#「労」に「マヽ」の注記]れた足をひきずつて、弱いからだを歩かせて、庵に辿りついた、夜目にも雑草風景のすばらしさが見える。……
風鈴が鳴る、梟が啼く、やれ/\戻つた、戻つた、風は吹いてもさびしうない、一人でも気楽だ、身心がやつと落ちついた。
すぐ寝床をのべて寝た、ぐつすりとゆつくりと寝た!
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 ふるさとはすつかり葉桜のまぶしさ
・やつと戻つてきてうちの水音
・わらやしづくするうちにもどつてる
・雑草、気永日永に寝てゐませう(病中)
[#ここで字下げ終わり]

 四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線]

久しぶりにようねむれた、山頭火は其中庵でなければ落ちつけないのだ[#「山頭火は其中庵でなければ落ちつけないのだ」に傍点]、こゝならば生死去来がおのづからにして生死去来だ、ありがたし、かたじけなし。
降つたり照つたり、雑草、雑草。
起きるより掃除(樹明君が掃除してくれてはゐたが)、数十日間の塵を払ふ。
学校に樹明君を訪ねる、君は私が途中、どこかに下車したと思つて、昨日も白船君と交渉したさうな、感謝々々。
街へ出かけて買物、米、炭、味噌、等々(うれしいことにはそれらを買ふだけのゲルトは残つてゐた)。
御飯を炊き味噌汁を拵らへて、ゆう/\と食べる、あまり食べられないけれどおいしかつた。
つかれた、つかれた、……うれしい、うれしい。
とんぼがとまる、てふてふがとまる、……雲雀がなく蛙がとぶ、……たんぽぽ、たんぽぽ、きんぽうげ、きんぽうげ。……
柿若葉がうつくしい、食べたらおいしからう!
方々へ無事帰庵のハガキを書く、身心がぼーつとしてまとまらない、気永日永に養生する外ない。

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