「菩薩」に傍点]ともいふべく、他は禽獣ともいふべき人間)。
(肥育[#「肥育」に傍点]といふことも)
△君よ[#「君よ」に傍点]、みだりに愛を口にするなかれ[#「みだりに愛を口にするなかれ」に傍点]、慈悲を説くなかれ[#「慈悲を説くなかれ」に傍点]。
もう暑い、街まで出かけてもヱライ、弱くなつたものだ、こんなに弱くては。……
夕方、案外早く樹明君が帰つて来た、飲んで寝る。
よい月夜、ほろ酔の月のあかりはよろしいかな。
樹明君は夜の明けるのを待つて早く帰つていつた、よろしい。
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・青葉そよぐ風の、やぶれた肺の呼吸する
・夕風がでてあんたがくるころの風鈴の鳴る(樹明に)
・かたづけてまだ明るい茄子に肥水《コヱ》をやる
・月夜の、洗濯ですか、よいですな
(自問自答)
せんたくはよろし
月夜の蛙がなく米をとぐ
厠のあかるさは月のさし入りて
[#ここで字下げ終わり]
五月廿六日[#「五月廿六日」に二重傍線]
日本晴、頬白が囀り合うてゐる、私もうれしい、多分彼氏の来る日だ。
何とあたゝかい手紙が――澄太君をし[#「をし」に「マヽ」の注記]て迎田さんから――
ふと思ひ立つて山口へ行く、途上、冬村君に逢ふ、ニコ/\してゐる、その筈だ、今夜が婚礼だといふ、一天雲なし、めでたい/\。
大歳駅附近には芝居の掛小屋があつた、山口駅では旅芸人の群を見た、彼等に幸福あれ。
買物いろ/\――夕顔の苗、蕨、生干の小鰯、小さい食卓、等々――それだけで壱円あまり。
昼食は酒一杯とうどん一杯、むろん千人風呂には入つた、これが目的の大半だから、――温泉はほんたうによい。
九時で行つて三時には戻つた、戻つてみたら、やつぱり敬治君が来てゐた、いつしよに農学校へ、樹明君は婚礼の接待役を頼まれてゐて駄目、二人で駅のI旅館で夕飯、よく食べてよく飲んだ、うまかつた、近来の御馳走だつた、それからMでコーヒー一杯、そこで別れる、敬君は実家へ、私は庵へ戻つてぐつすりと寝た(コーヒー代五十銭はやつぱり惜しかつた、それは買はなければならない米二升代だつたではないか!)。
陰暦四月の十四日、月がよかつた。
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ちつとも雲がない山のよろしさ
・おもひでは山越えてまた山のみどり
刑務所の高い塀から青葉若葉
千人風呂
ま昼ひろく
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