て私ひとりにあふれる湯
 ぞんぶんに湧いてあふれる湯をぞんぶんに
・ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯
   駅所見
 初夏の牛どもよ載せられてどこへ行く
・こんなに晴れた日の猫が捨てられて鳴く
[#ここで字下げ終わり]

 五月廿七日[#「五月廿七日」に二重傍線]

晴、午後は曇つて雨が近いらしい、満月も駄目になつた。
身心がすこし重い、昨夜の飲みすぎ食べすぎのむくいだ。
街へ石油《アブラ》買ひに、――砂土を貰つて戻る、昨日、わざ/\山口から買つてきた夕顔の苗を植ゑる、どうもあぶないらしい、どうか生きかへつてくれ、伸びてくれ、咲いてくれ、実つてくれ。……
今日は海軍記念日、町では記念会が催されたらしい、飛行機が通つていつた爆音も今日にふさはしかつた、非常時風景、軍国風景の一つだ。
敬治君来庵、庵の御飯はうまいといつて数椀食べてくれた。
△人間の気分といふものも面白いものだ、君は、医者のところで、うつかり父はゐないといつて、父を殺してしまつた[#「父を殺してしまつた」に傍点]さうな!
私だけ学校へ、鋸と鎌とを借りて、葵一茎、白薔薇一枝を貰つてくる。
やがて樹明君来庵(昨夜の冬村婚礼は朝の六時まで続いたさうだ)、ビール、酒、胡瓜も来庵!
飲んで食べて饒舌つて、夕方解散。
しづかなるかな[#「しづかなるかな」に傍点]、さびしくはない[#「さびしくはない」に傍点]、しづかなる一人だ[#「しづかなる一人だ」に傍点]。
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・雨ふる竹をきる濡れてゐる(追加)
・死んでもよい青葉風ふく(〃)
・雀こゝまで子を連れてきてだんだんばたけ
・大きな鋸が造作なく大きな木を炎天(追加)
   改作追加
・雨ふる生えてゐる木を植ゑかへる
・百姓も春がゆく股引のやぶれ
・たま/\髯剃れば何とふかい皺(病後)
・ひとり、たんぽぽのちる
・寝るとして白湯のあまさをすする
[#ここで字下げ終わり]

 五月廿八日[#「五月廿八日」に二重傍線]

曇、后晴、また持ち直したらしい、よく続くことだ。
ありがたい手紙をいたゞく(江畔老人から)。
うつかりして百足に螫された、大していたまなくてよかつた、見たらいつも殺すのだから一度ぐらゐ螫されたつて腹も立てられない。
街へ出かける、米買ひに(ついでに酒もうどんも)。
杉の下枝をおろす、茂りおろすや、と一句ありさうなものだが。
樹明君から白
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