札が一枚あつたので、久振に入浴、憂欝と焦燥とを洗ひ落してさつぱりした。
幸福な昼寝。
やつぱり、句と酒[#「句と酒」に傍点]だ、そのほかには、私には、何物もない。
大根、ほうれん草、新菊を採る、手入をする、肥をやる。
私の肉体は殆んど不死身[#「不死身」に傍点]に近い(寒さには極めて弱いけれど)、ねがはくは、心が不動心[#「不動心」に傍点]となれ。
米桶に米があり[#「米桶に米があり」に傍点]、炭籠に炭がある[#「炭籠に炭がある」に傍点]といふことは、どんなに有難いことであるか、米のない日、炭のない夜を体験しない人には、とうてい解るまい。
徹夜読書、教へられる事が多かつた。
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・椿の落ちる水の流れる
・みそさゞいよそこまできたかひとりでなくか
・梅がもう春ちかい花となつてゐる
・轍ふかく山の中から売りに出る
・枯枝をひらふことの、おもふことのなし
 そこら一めぐりする椿にめじろはきてゐる
 ふるさとなれば低空飛行の爆音で
[#ここで字下げ終わり]

 二月六日[#「二月六日」に二重傍線]

くもり、何か落ちてきさうだ。
うれしいたよりがあつた。
やうやく句集壱部代
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