くると、庵には灯がついてゐる、敬坊が炬燵にぬく/\と寝てゐるのだつた。
酒と米とを持つてくることを忘れない彼は涙ぐましい友情を持ちつゞけてゐる、彼に幸福あれ、おとなしく飲んで、いつしよに寝る、一枚の蒲団も千枚かさねたほどあたゝかだつた。……
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・バスが通る水田の星もうるめいてゐるを戻る
 夢の女の手を握つたりなどして夢
・春めいた夜のわたしの寝言をきいてくれるあんな[#「な」に「マヽ」の注記]がゐてくれて(敬治君に)
・酔うていつしよに蒲団いちまい(敬君に、樹明君に)
・あんなところに灯が見える山が空がもう春
・ふたりでふみゆく落葉あたゝかし
 落葉ふんではふたりで枯枝ひらふなんど
・わたしが焚くほどの枯木はおとしてくれる山
・梅がひらいてそこに蓑虫のやすけさ
・をちこち畑うつその音もめつきり春
[#ここで字下げ終わり]

 二月十日[#「二月十日」に二重傍線]

晴、朝は霜で冷えたが、日中はほんたうにぽか/\だつた。
アルコールのおかげで、ぐつすり寝られた、同時にそのまたおかげで胃が悪い、ありがたくもありありがたくもなし、か。
朝酒はうまし、朝茶もうまし、敬坊と
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