工所
戸畑漁港(二)
・日向はぬくうて子供があつまる廻転饅頭
・仕事すましてぶらさげてもどる大[#「大」に「マヽ」の注記]刀魚のひかる
・枯葦に汐みちてくる何んにもゐない
・こんなに帆柱が、春風の、出る船入る船
長屋の真昼はひつそりとホウホケキヨ
もうあたゝかい砂の捨炭ひらふことも
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二月廿四日[#「二月廿四日」に二重傍線]
晴、朝の寒さは昼の暖かさとなる。
入雲洞君よ、たいへんお世話になりました、何から何までありがたう。
山越して八幡へ、のんびりぼんやりの気分で市街見物。
小山の枯草にすわつて古い握飯を食べる。
製鉄所の煙突と煤煙とを鑑賞する。
四有三居訪問、番人に誰何されたり、押売と間違へられたりした、それも旅の一興、いや、私にはふさはしい出来事だ。
からいおひやをよばれる、ペハ[#「ハ」に「マヽ」の注記]アミントをよばれる、いやはや。
夜は光の会、会者十数名、なか/\盛況だつた。
黎々火君と共に星城子居に泊る、星城子君の友情が骨身にしみとほる。
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・こんな水にも春の金魚が遊んでゐる
・かすんでけぶつて山の街にも日の丸へんぽん
・今日の乞ふことはやすくておいしい汁粉屋の角まで
・おぢいさんの髯のながさをおもちやにして日向ぼつこ
・食べものうつくしうならべ煤がふる
白い煙が黒い煙が煙突に煙突
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(八幡は製鉄所を持つ都会だけに、くろがねせんべいといふのがある、鉄町といふ町名があつた)
二月廿五日[#「二月廿五日」に二重傍線]
朝からかしわで酒[#「かしわで酒」に傍点]の贅沢三昧。
黎々火君とは駅で別れる、君は上りで門司へ、私は下りで糸田へ。
一時にはもう緑平居に落ちついて、湯豆腐で一杯二杯三杯だつた。
緑平老はまことに君子人なるかな。
急に左半身不髄の症状に襲はれた、積悪の報いいたしかたなし、飲みすぎ食ひすぎはつゝしむべし。
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曇れば寒いボタ山ふたつ
・逢うてうれしくボタ山の月がある
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緑平居
ふきのとう、焼いてもらふ
雀のお宿、雀が泊りにくる
泰山木、雀の好きな木
夕雀にぎやかなり、雀と仲よし
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二月廿六日[#「二月廿六日」に二重傍線]
左手が利かない、身体が何だか動かなくなりさうだ、急いで帰庵することにする、八時出立、直方までは歩いた、それから折尾まで汽車、八幡まで歩く、門司まで汽車、下関へ汽船、それから黎々火居まで歩いて一泊、黎々火君の純情にうたれる。
私もいよ/\本格的癈人[#「本格的癈人」に傍点]になりさうだ、本格的俳句[#「本格的俳句」に傍点]が出来るかも知れない。
ヒダリはかなはなくても飲むことは飲める、水はなか/\酒にならない、酒は水になりやすいが。
酒と心中したら本望だ。
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・けさはおわかれの太陽がボタ山のむかうから(緑平居)
・よぼ/\のからだとなり水をさかのぼる
・驢馬にひかせてゆくよ春風
・枯草ふかく水をわたり、そしてあるく
・また逢へようボタ山の月が晴れてきた
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遠賀川風景
枯葦
雲雀の歌
放牧の牛の三々五々
霞うら/\
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あされば何かあるらしい鶏は鶏どち
焼芋やけます紙芝居がはじまります
旅のつかれのほつかりと夕月
・枯草の日向見つけて昨日の握飯
病めばをかしな夢をみた夜明けの風が吹きだした
[#ここで字下げ終わり]
二月廿七日[#「二月廿七日」に二重傍線]
夜来の雨がはれて、何となく春だ。
七時の汽車に乗る、九時帰庵、其中一人のうれしさよ。
さつそく樹明君を訪問する、そして方々の借銭を払へるだけ払うてまはる。
酒を食べ鮨を食べる、酔うて寝る。
樹明君来訪、積る話は尽きなかつた。
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・こんなにつかれて日照雨ふる
・うらからはいればふきのとう
・ほろにがいのも春くさいふきのとうですね(緑平居)
誰も来ない月はさせどもふくらうなけど
利かなくなつた手は投げだしておく日向
げそりと暮れて年とつた
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二月廿八日[#「二月廿八日」に二重傍線]
片手の生活、むしろ半分の生活[#「半分の生活」に傍点]がはじまる。
不自由を常とおもへば不足なし、手が二本あつては私には十分すぎるのかも知れない、一つあれば万事足る生活がよろしい[#「一つあれば万事足る生活がよろしい」に傍点]。
街へ米買ひに、――食べずにはゐられないことは困つたことだ。
身辺整理、――遺書も認めておかう。
樹明君が病状見舞に来てくれる、酒と下物とを持つて。
死を待つ心、おちついて死にたい[#「おちついて死にたい」に傍点]。
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