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鳴きつゞけて豚も寒い日
・何やら来て何やら食べる夜のながいこと
もう一杯、柄杓どの(酔ざめに)
・月がぱち/\お風呂がわいた
夜ふかうして白湯《サユ》のあまさよ
追加
乞ひあるく道がつづいて春めいてきた
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三月一日[#「三月一日」に二重傍線]
曇つて寒い、井上さんから貰つてきたトンビのありがたさよ。
新若布がおいしい、私には菜食がよろしい。
何事もなし。
三月二日[#「三月二日」に二重傍線]
晴、春寒、不自由不愉快。
我儘な猟人が朝からパン/\うつ、気の毒な小鳥たちよ。
何事も積悪の報い、甘受いたしませう。
孤独、沈黙、句作。
めづらしや女性来訪、F屋のおばさんとちいちやん、水仙もらひに寄つたのです、紅茶を御馳走する。
夜、冬村君来庵、お土産として水餅どつさり。
つゞいて樹明来、おとなしくすぐ帰宅。
さらにTさんがやつてくる、酒を持つて、――おそかりし、おそかりし。
月のあかるさ、一人のよろしさを味ふ。
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・風が明けてくる梅は満開
いつもつながれてほえる犬へ春の雪
待つても来ない木の葉がさわがしいゆふべとなつた
・ちかみちは夕ざれの落葉ふめば鳴る
さむいゆふべで、もどるほかないわたくしで(樹明君に)
犬がほえる鳥のなく草は枯れてゐる
・水底ふかくも暮れのこる木の枯れてゐる
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三月三日[#「三月三日」に二重傍線]
さむいけれどうらゝかである、餅と酒と豆腐と。
樹明君を徃訪して、帰庵して、御馳走をこしらへて待つ、待ちきれなくて街をあるく、帰つてみれば、樹明君はちやんと来てゐて、御馳走を食べてゐる、さしつさゝれつ、とろとろとなる、街へ出てどろ/\となつて別れる。
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・酔ひざめの春の霜
・藪かげほつと水仙が咲いてゐるのも
みんな酔うてシクラメンの赤いの白いの
・風がふくひとりゆく山に入るみちで
・すげなくかへしたが、うしろすがたが、春の雪ふる(樹明に)
・洗つても年とつた手のよごれ
・心あらためて土を掘る
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三月四日[#「三月四日」に二重傍線]
樹明君が朝も晩もやつてきて、昨夜の酔態をくやしがる。
雪がとけて風がふく、さみしいな、やりきれないな。
三月五日[#「三月五日」に二重傍線]
晴れたり曇つたり、今日も雪だ。
形影問答、年はとりたくないものだのう、さうだのう。……
風呂にはいる、身心やゝ解ける。
夜は宿直室に樹明君を訪ねて御馳走になる、そして泊る。
三月六日[#「三月六日」に二重傍線]
雪、雪、寒い、寒い。
母の祥月命日、涙なしには母の事は考へられない。
終日独居。
友はありがたいかな、私は親子肉縁のゆかりはうすいが、友のよしみはあつい、うれしいかな。
忘れられた酒[#「忘れられた酒」に傍点]、それを台所の片隅から見出した、いつこゝにしまつてゐたのか、すつかり忘れてゐた、老を感じた、その少量の酒をすゝりながら。……
陶然として、悠然として酔ふた、そして寝た、寝た、宵の七時から朝の七時まで寝つゞけた。
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・雪あした、すこしおくれて郵便やさん最初の足跡つけて来た
・死ねる薬はふところにある日向ぼつこ
・水のんで寝てをれば鴉なく
・売れない植木の八ツ手の花
・寒い雨がやぶれた心臓の音
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三月七日[#「三月七日」に二重傍線]
晴、春風しゆう/\だつたが、午後は曇つて降つた、しかし昨日の雪のとけるといつしよに冬はいつてしまつたらしい。
草が萠えだした、虫も這ひだした、私も歩きださう。
一片の音信が、彼と彼女と私とをして泣かしたり笑はしたりする、どうにもならない私たちではあるが。
街へ出て、米すこしばかり手に入れる、餅ばかりでは困る。
心臓[#「心臓」に傍点]がわるい、心臓はいのち[#「いのち」に傍点]だ、多分、それは私にとつて致命的なものだらう。
どうせ畳の上では徃生のできない山頭火ですね[#「どうせ畳の上では徃生のできない山頭火ですね」に傍点]、と私は時々自問自答する、それが私の性情で、そして私の宿命かも知れない!
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・晴れて風ふく春がやつてきた風で
・日がのぼれば見わたせばどの木も春のしづくして
・む[#「む」に「マヽ」の注記]のむしもしづくする春がきたぞな
・木の実ころ/\ころげてくる足もと
・豚の子のなくも春風の小屋で
・まがればお地蔵さまのたんぽぽさいた
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三月八日[#「三月八日」に二重傍線]
降つても照つても、晴れても曇つても、風が吹いても、春が来てゐることに間違はない。
日がさすと、雲雀が出てきてあるいてゐる、私も出てあるく。
緑
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