八日[#「三月廿八日」に二重傍線] 旧暦節句。
時化、霰さへ落ちた。
宵から朝まで、ぐつすり寝たので気分爽快、仕事が出来る。
鼠の悪戯には閉口する、よし持久戦だ、糧道を断つてやらう!
心のうちに雨がふる、――私もやつぱりまだセンチメンタリストだ!
糸菜――京菜を買ふ、一株一銭(小売値段が)とは安すぎる、何だか腹立たしくなつた、――が、煮てもうまい、漬けてもうまい。
滓酒一杯、それで虫をごまかす。
飯を食べないでも、嫌な行乞はしたくない、この気持は行乞の体験のない人には解らないらしい。
理智、理解、理論といふものが考へさせられる。
△摂取不捨[#「摂取不捨」に傍点]といふことも、同時に考へさせられる。
夜、冬村君来庵、お節句の蓬餅を貰つた、さつそく焼いて食べる、うまいうまい、つゞいて樹明君来庵、上機嫌だ、塩昆布茶をすゝりつゝ話す、そしておとなしく別れた、すこし淋しかつたが。
[#ここから2字下げ]
・春寒い鼠のいたづらのあと
・春がしける日のなにもかも雑炊にしてすする
・たたきだされて雨はれる百合の芽である
・春時化のせせらぎがきこえだした
・林も水があふれる木の芽
土のしじまの芽ぶ
前へ
次へ
全47ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング