のはじまりはじまり。
うまい肉だつた、よい酒だつた、今夜はおとなしく別れた、このところ樹明君大出来、あつぱれなおちつきぶりだつた、私と敬坊とはたしかに落第だつた。
ヨーヨーをやつてみる(樹明君が持つて来たので)、誰だかヨーヨーとひやかす。
出来るだけ借金を払ひ、出来るだけ買物をする、酒屋へ弐十弐銭、米屋へ弐十三銭、そして古本屋へ十銭払ふべく行つたら、彼はいつのまにやら夜逃してゐた、近頃ユーモラスな題材が多い。
落し物をした、――拾ふことあれば落すことあり、善哉々々。
一人となつて、千鳥が鳴くのを聞いた、やつぱりさびしい。
ねむれないから本を読む、本を読むからねむれない、今夜は少々興奮したのだらう、とかくしてまた雨となつたらしい。
鼠が天井を走る、さても辛棒強い鼠かな、庵主に食べる物がなくなつても、鼠には食べる物があるのか、不思議だな。
敬君がヒヨを一羽拾うてきた、打たれてまだ間がないと見えて、傷づいた胸がぬくかつた。
△西田天香さんの息子、本間俊平さんの息子、共に不良ださうなが、考へさせる人生の事実だ。
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 あれは九州といふ春の山また山
・うららかな、なんでもない
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