のお土産)。
夜、樹明君来庵、まじめな、酔つぱらはない、なごやかな樹明を見せてくれたのでうれしかつた。
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・たどりきてからたちのはな
・からたちの咲いてゐる始業の鐘の鳴る
・何もかも過去となつてしまつた菜の花ざかり
 今日がはじまるサイレンか
・ゆふべは豚のうめくさへ
・右からも左からも蛙ぴよんぴよん
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 四月廿五日[#「四月廿五日」に二重傍線]

曇、間もなく雨となつた、そして一日一夜降り通した。
のらりくらり、かういふ生活にはもう私自身がたへきれなくなつた。
敬君からの手紙は悲喜こも/″\であつた、君、君の家庭に平和あれ。
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 朝ぐもりの草のなかからてふてふひらひら
・ここまではうてきた蔦の花で
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 四月廿六日[#「四月廿六日」に二重傍線]

ふと水音に眼がさめた、もう明けるらしいので起きる。
身も心もすべてが澄みわたる朝だつた。
正法眼蔵拝誦、道元禅師はほんたうにありがたい。
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・春雨の夜あけの水音が鳴りだした
・唱へをはれば明けてゐる
・朝の雨にぬれながらたがや
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