快晴、しかし何となく気が欝ぐ、この年になつて春愁でもあるまい、もつとも私は性来感傷的だから、今でも白髪のセンチメンタリストかな。
山へのぼつた、つつじの花ざかりだ、ぜんまいはたくさんあるが、わらびはなか/\見つからない、やつと五本ほど摘んだ(これだけでも私一人のお汁の実にはなるからおもしろい)、そしてつゝじ一株を盗んできて植ゑて置いた。
柿が芽ぶいた、棗はまだ/\、山萩がほのかに芽ぶかうとしてゐた、藤はもう若葉らしくなつてゐた。
昨日は蕗、今日は蕨、明日は三つ葉。
雀がきた、雀よ雀よ、鼠がゐた、鼠よ鼠よ。
みみづをあやまつて踏み殺し、むかでをわざと踏み殺した。
山で虻か何かに刺された。
持つてゐる花へてふてふ、腕へとんぼがとまつた。
すばらしい歌手、名なし小鳥がうたつてゐた。
今日は敬坊が、そして樹明君も来庵する筈なので、御馳走をこしらへて待つてゐる、――大根の浅漬、若布の酸物、ちしやなます、等々!
春は芽ぶき秋は散る、木の芽、草の芽、木の実、草の実――自然の姿を観てゐると、何ともいへない純真な、そして厳粛な気持になる、万物生成、万象流転はあたりまへといへばそれまでだけれど、私はや
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