生一本、茹章魚、干鰈。
灘の生一本は何ともいへない醇酒だつた、さつそく一本頂戴した、酔心地のこまやかさ。
ちよつと街へ出て、お酌をしてくれる酒二三杯。
夜は樹明、冬村の二君来庵、四人でおもしろく飲んで話した。
道をおなじうするもののよろこび。
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椿の花、お燗ができました
酒がどつさりある椿の花
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四月六日[#「四月六日」に二重傍線]
ごろ寝から覚めて、あれやこれやと忙しい(私の貧しい寝床は大前さんに提供したから)、冬村君が手伝つてくれる、樹明君もやつてくる。
其中庵の春、山頭火の春。
九時すぎ別れる、がつかりしてさみしかつた。
敬坊の手紙はかなしい。
夕方、樹明再来、つゝましく、といふよりも涙ぐましく対酌。
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・昼月へちぎれ雲
裏口からげんげたんぽぽすみれ草
・芽ぶく梢のうごいてゐる
・みんなかへつてしまつて春の展望
・このさみしさは蘭の花
・水をくむ影する水を
酔ひたい酒で、酔へない私で、落椿
・やりきれない草の芽ぶいてゐる
・出てあるいてもぺんぺん草
・昼月のあるだけ
・自分の手で春空の屋根を葺く
・水音
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