花の咲いてゐる
ほそいみちがみちびいてきて水たまり
・春ふかい石に字がある南無阿弥陀仏
春たけなはの草をとりつつ待つてゐる
・ようさえづる鳥が梢のてつぺん
親子むつまじく筍を掘つてをり
・筍も安いといひつつ掘つてゐる
木の芽へポスターの夕日
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暮れてもまだ敬坊は来ない、樹明君も来ない、いら/\してゐるところへやつとやつて来た、御持参の酒を飲みつゝ話してゐると、樹明君もやつてきた、三人とも酔ふた、酔うて。――
樹明君近来の口癖はブチコワスゾである、何カヲブチコワサズニハヰラレナイホド、君は悩み苦しみ焦立つてゐる、そこで、私が先づ茶碗をぶちこはす、樹明君喜んで皿を投げつける、ガチヤンガラガラ、どうやら胸がすいたらしい。
酔つぱらつた三人は必然的に街へ出かけた、そしてまた飲んでさらに酔ふた、私と敬坊とは腕を組んで、さうらうまんさんとして駅前の宿屋に泊つた。
今夜は文字通りにどろ/\になつた、泥田を這ひまはつたのだから、からだは泥まみれだつた(こゝろはあまり汚れなかつたが)。
四月廿三日[#「四月廿三日」に二重傍線]
明けて飲み、暮れて別れた、とにかく忘れることのできない一日一夜だつた、めでたくもありめでたくもなし、喝。
戻つて来て、室内を掃除し、茶を沸かし飯を食べる。
敬坊よ、夫婦喧嘩も時々はよからう、それはほがらかでなければならない、陰惨であつてはならない。
私には喧嘩する相手もない、独相撲[#「独相撲」に傍点]でもとるか!
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・こころ澄めば蛙なく
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昨日の二十二句は此一句に及ばない。
四月廿四日[#「四月廿四日」に二重傍線]
晴、すべてが過ぎてしまつた! といふ気持、しかし昨夜は労[#「労」に「マヽ」の注記]れてぐつすりねむれたので悪い気持ではない。
身のまはりを片づける。
出来るだけの買物をする、――米、醤油、石油、そして焼酎一杯。
初めて春蝉をきいた、だるくてねむくなる、五日ぶりに入浴、さつぱりした、しづかに読書。
酒もよいが茶もわるくありませんね[#「酒もよいが茶もわるくありませんね」に傍点]。
F家のおばさんから、例のブチコハシをひやかされた、あゝいふ気分はとても彼女等には理解できぬらしい、喧嘩でもしたのだらうと思つてる。
三ツ葉のおしたし、葉わさびをふつて貯蔵する(敬坊のお土産)。
夜、樹明君来庵、まじめな、酔つぱらはない、なごやかな樹明を見せてくれたのでうれしかつた。
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・たどりきてからたちのはな
・からたちの咲いてゐる始業の鐘の鳴る
・何もかも過去となつてしまつた菜の花ざかり
今日がはじまるサイレンか
・ゆふべは豚のうめくさへ
・右からも左からも蛙ぴよんぴよん
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四月廿五日[#「四月廿五日」に二重傍線]
曇、間もなく雨となつた、そして一日一夜降り通した。
のらりくらり、かういふ生活にはもう私自身がたへきれなくなつた。
敬君からの手紙は悲喜こも/″\であつた、君、君の家庭に平和あれ。
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朝ぐもりの草のなかからてふてふひらひら
・ここまではうてきた蔦の花で
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四月廿六日[#「四月廿六日」に二重傍線]
ふと水音に眼がさめた、もう明けるらしいので起きる。
身も心もすべてが澄みわたる朝だつた。
正法眼蔵拝誦、道元禅師はほんたうにありがたい。
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・春雨の夜あけの水音が鳴りだした
・唱へをはれば明けてゐる
・朝の雨にぬれながらたがやす
・白さは朝のひかりの御飯
・ぬれてしつとり朝の水くむ
・水にそうて水をふんで春の水
・春はゆく水音に風がさわいで
・春の水のあふれるままの草と魚
・晴れて旗日や機械も休んでゐる(追加)
・蕗の皮がようむげる少年の夢
[#ここで字下げ終わり]
誰かきた声がする、出て見ると、嘉川の万福寺の御開帳で、御案内旁御詠歌連中を連れて来ましたといふ、私は困つた、私には差上げる銭も米もないのだ、何もありませんが、といふと、それではまた、といつて帰つていつた、まことにお気の毒だつた、すみませんでした。
敬治君へ手紙を書く、――何よりも先づ金銭の浪費をやめなければなりません、現代の社会組織下に於ては、我々にとつて、金銭の浪費は生命の浪費[#「金銭の浪費は生命の浪費」に傍点]です、これを宗教的芸術表現でいへば、それは仏陀の慧命の浪費[#「仏陀の慧命の浪費」に傍点]です。……
純情は尊いけれど、それを裏付ける強い意志が伴はないならばたゞそれだけにとゞまる、……よい酒[#「よい酒」に傍点]とは昨日を忘れ、明日を思はず、今日一日をホントウに生かしきることが出来るやうに役立つ酒でなければなりません、……とにかく
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