ので釣銭として五厘銅貨がほしいといつた)
古木を焚いて湯を沸かして砂糖湯を飲む、うまい。
酒はこらえられるが、煙草はなか/\こらえにくいものである、その煙草を三日ぶりに喫ふたのである。
△身貧しくして道貧しからず、――負け惜みでもなく、諦めでもなく、それは今日の私の実感であつた。
木がある水がある、塩がある、砂糖がある、……しかし、古木を焚いて(炭がないから)砂糖湯を啜る(米がないから)といふ事実はさみしくないこともない、さみしくてもありがたい、湯がたぎる、りん/\とたぎる、その音はよいかな、ぱち/\と燃える音はいはでもがな。
かうして生きてゐる、それは生活といふべくあまりにはかないであらうけれど、死ねないあがきではない、やすらかである。
△水仙のきよらかさ、藪柑子のつゝましさ、雑草のやすけさよ。
けふも鴉が身にせまつて啼く。
晩には食べるものがないから、大根を三本(大根三本の命ともいへる)ひきぬいて、それを煮て食べた、それで十分だつた、大根は元来うまいものだが、こんばんの大根はとりわけうまかつた、こんなにうまい大根をたべることが出来たのはありがたいことだ、しかしこれでいよ/\食べるも
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