ぼつこしてゐねむりするにはもつてこいの日だ。
けさの御飯は上出来だつた、仏様も喜んで下さるだらう、まだ雪をかぶつてゐる大根一本ぬいてきておろしにする。
「松」がきた、待つともなく待つてゐる手紙は来ない、まもなく新聞がくる、これでもう来る人も物もないわけだ。
それにつけても、樹明さんはどうしたのだらう、こんなに長く、といつても五日ばかりだが、やつてこないことは、今までにはなかつた、禁足か、自重か、それとも家事多忙か、身辺不穏か、とにかく気にかゝるけれど、此場合、訪ねてゆきたくない、行くべきでないと思ふ、いろ/\の理由から。――
三八九の原稿を書きつゞける、煙草のなくなつたのが残念だ、一服やりたいなあ、と灰の中の吸殻をさがしてみる。
午は菜葉を煮て食べる、寒いからラードを少し入れる。
火を焚きつゝ、私はいつも火について考へる、火、ひとりの火。
この火床《クド》も火吹竹も私がこしらへたものである。
水仙は莟がだいぶ大きくなつた、裏の梅二株は見頃だ。
晩にはすいとん汁[#「すいとん汁」に傍点]をこしらへた、御飯が足らないらしいから。
夜、やうやく三八九の原稿を書きあげた、安心して寝る。
よろこ
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